屋久島を離れる時は宮之浦の港は南からの風と時折叩き付けるように降ってくる大雨で、海・陸共に大荒れの天気となった。相方と自分を乗せた屋久島町が経営する小さなフェリーは、ビル3階建て位にも匹敵する高さのうねりを蹴散らして前後左右に大きく揺れながらどうにかこうにか南種子町の小さな港、島間に接岸した。
上陸したオートバイは自分の相方1台だけ。屋久島や種子島に残っていたほかのバイクたちは皆、本土鹿児島に向けて帰っていった。薩南諸島に残った、内地のバイクは我々以外にはもしかしたら居ないかもしれない。G/Wが終わり、もとから寂しい島はこの天気に追い討ちを掛けられるように一層寂しくなるのだろう。
午後2時に南種子町の定食屋で昼食。そこでキャンプ場の情報を収集する。有り難い事に、ここから2キロの所に「宇宙が丘公園」という、如何にも種子島らしい公園の一角で幕営が出来るのだと言う。そして、今居る定食屋の裏手にグラウンドがあり、そのスタンドの屋根の下で幕営してもいいらしい。との裏情報も貰った。
今日明日の天気は最悪である事は事前に分かっているので、先ずは幕営場所を確保してから、買出しに出かけるつもりだった。先ず、至近距離にあるグラウンドのスタンドに行って見た。場所は教えられたとおりの所にあった、しかしそこにはいやな者が居たのだ。三~四人のスケボー小僧である。近くを様子を伺いながら通り過ぎる我々の姿が余程異様に見えたのだろう、彼らは滑るのをやめて、こちらを見入っていた。「・・・・別の場所にしよう」なんか、雰囲気が良くない・・と直感したのだ。こう言う奴らのいるところにテントやPCを置き去りにしていける事は出来ない。第一、街中でキャンプすると言う事がいかにリスクが高いかは、よく分かっている。町外れの公園で、雨よけが出来て且つ1箇所でもコンセントがあれば条件はクリヤーなのだが、その後の「宇宙が丘公園」と更に北に足を伸ばして「熊野海水浴場 自然レクリエーション村」のキャンプ場は本格的に営業を開始するのは7月からで、水道は出るが、電気・コンセントが全く無い。炊事場も狭く、テントをもぐりこませて設営する事も出来ない。トイレも異常に遠く、こんな悪天候の中を用足しにいくにしては余にも勝手が悪すぎる。今回は今までと違って、PCと携帯の電気を大量に使うと言う特異なツーリングスタイルをとっているので電源コンセントが、雨風を凌げる所にあるのが新たに加わった条件ではあるのだが、これまでに、秋吉台と青海島は炊事場にACコンセントがあった。でも特に近代的な設備ではないキャンプ場だったし、利用料金も高額ではなかった。それ以外のキャンプ場も、炊事場が広かったり、目の届く所にACコンセントあり怪しい天気の時にはPCを直ぐに屋根の下に避難させる事が出来ていた。
しかし、今日あたった2箇所のキャンプ場はそのいずれの条件も満たしていなかった。特に今日のような嵐が来る日は、風を遮ってくれる様なロケーションが必須である。自分のテントはもともと平地用の簡単な作りなので強風に対しては脆弱である。「熊野海水浴場」のテントサイトはまさに吹きさらしの場所にあり、夏場の海水浴とキャンプには最高の場所かもしれないが、風を避ける場所が無ければ、今日明日の悪天候を乗り切る気力はない。屋久島で、しこたま幕営してきたのでそろそろ屋根のある所でゆっくりしたい気分になっていた。だから、キャンプ場でもバンガローがあればそこを使いたかったが、それも無かった。驚いた事に携帯電話が圏外の表示。連絡も通信も出来ない。話にならない。モッチョム岳以来の洗濯物も残っている。早く片付けたい。しかし、近所にコインランドリーはなく、中種子町まで出ないと無いらしい。最悪なのは「熊野C/A」のサイトへの入り口の地面の状態。サラサラのきめの細かい砂地になっていて、そこに雨が降ったもんだからまさにドロドロ状態。フル積載の相方のフロントが何度も取られそうになり、冷や汗が全身から噴出した。「やめだやめだ」時刻は5時を過ぎていた。自分はこの時点で、幕営地探しをあっさり諦め宿に飛び込む事に作戦を変更した。「熊野C/A」を探している時にふと目にとまっていた「種子島温泉ホテル」と看板が出ていた建物を覚えていたので、そこへ直行する。玄関のドアを開ける、ロビーは明かりが落とされていて真っ暗である。奥のほうに支配人(?)の奥さんが何か作業をしていた。「すいません、予約していないんですけど、泊めて貰えますか?」連休も終わり、お客が全く居なくなったので今日は開店休業にしていたらしかったのだが泊めて貰えることになった、地獄に仏である。実はこの時点でかなり疲れていたのである。夕食は流石に時間が遅かったので外で食べる事になった。
荷物を相方から降ろして整理していた所、奥さんが「国道に出た所に、定食屋が営業しているらしいですから、よかったらうちの軽トラでも使って下さい」と正に仏サマのようなお言葉を頂いた。外はいよいよ雨が本降りになってきており、一度脱いだ雨合羽を再び着るのがかなり億劫にはなっていたのだ。

「旅の恥は掻き捨て」遠慮なく宿の主人の所有する軽トラックに乗って、国道沿いの定食屋に向かう、こんな経験は10数年ツーリングをやってきて勿論初めてのことである。正に貴重な経験だった。こんな事も繁忙期が終わり閑散期に入ったから出来た事であって、連休中であったら、一人島の中で途方に暮れていたかも知れない。
物事が思うように上手く運ばない時は今までならムキになってでもその思いを実行させようとしていた。しかし、今回の旅は急ぎの旅ではない。極貧の一人旅でもない。気分が乗らなかったら、実行しても絶対にツマラナイ思い出で終わってしまう。だから、今日は緊急避難と態勢の立て直しを兼ねて宿に飛び込んだのだ。
今PCの充電も無事に終わり、ひとごこちついている。しかし、ホテルの中だというのに携帯電話のアンテナが1本立つか立たないかのような状況。モッチョム岳の森林の中でも3本立った屋久島とはエライ違いである。今夜から明日にかけて、徹底的に幕営場所の情報収集をすることにする。天候が今日のような状況が続くのであれば(気象庁は夕方まで荒れると言っている)、今のホテルに連泊してしまおうかとも考えている。何故なら、泊り客は自分一人しか居ないのだから。

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