近江八幡ユースホステル、このYHはNGである

〇五月八日

朝、部屋に差し込んでくる日の光で目が覚めた。さて、あいつはどうしているだろうか、と布団に入ったまま部屋を見渡してみると、布団が畳まれている、もう出掛けたのだろうか。よかったよかったと更に首を回すと、なんとそいつは窓際の壁に体育座りをしてこっちを見ているではないか!
 
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!

「やっぱり、こいつはおかしい奴だ」と、確信しそのまま無視して朝飯のお呼びがかかるまで狸寝入りを決め込むことにした。
やがて、時間が来たのだろうか、そいつは荷物を抱えて部屋を出て行き、前庭で暫くバイクの暖機運転をしたあと出発していった。
自分はバイクの排気音が遠ざかっていくのを確認して布団から飛び起き、出発の用意を始めた。
昨日に引き続いて、たった一人での朝食。そして、相方に荷物をパッキングし火を入れる。油温計が適当な所に上がって暖機が完了したところでペアレントに一言挨拶をしようと玄関に顔を出し、「じゃ、そろそろ行きますんで」と言ってみたがなんの反応もなし。
聞こえないからといって怒鳴るのは馬鹿らしい、「あっそ。最後の最後までそういう事なんだ・・・」と、少し声のレベルを上げて捨てぜりふを吐き捨てて相方の元に戻り、玄関を開けっ放しのままにしておいて出発した。
宿の当たり外れというのは、自分のように旅の経験をある程度重ねていても分からないものである。
ただ一つだけ言えることは、そこで嫌な思いをしたら、二度とそこへは行かなければよい、という判断を下すことが出来る、という事だ。
快晴の東名高速は名古屋を過ぎた辺りで交通量が増えてきた。連休明けの最初の週末とあって、浜名湖を過ぎてからやたらと小奇麗なバイクに棄り、お揃いのジャケットに身を包んだグループを見かけるようになった。
それと比べて、ここまでの行程で既に2000キロを越えている相方は、それなりの汚れ方をしている。しかし、その汚れ一つ一つには長旅の証が染みついている、と考えればそのままのほうが頼もしく見える。ここまで、目立ったトラブルも出ず、快調に旅を続けさせてくれた相方に感謝しつつ、「家まであと400キロ、もう一頑張り頼みまっせ」と声を掛けエンジンに火を入れた。時刻は午前10時を少し回った辺り、このぺースで行けば日没前には自宅に到着出来るだろう。

〔完〕
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