先生は、二度腰を複雑骨折している、と言われ、ゆっくりと歩いていた

その腰の折れた姿だけ見れば、頑張るおばあちゃん、にしか見えないが

実は、そんな高齢者ではない。

 

湖のような瞳をしていた。頬はバラ色。

分厚い辞書のような「記憶」を、流れるように語り、博識。

 

「森の高い木は、葉や枝を震わせて、水分を上に上に送るんです。同じような力で、あなたの中にある、滞り気味の血液を、全身に循環させます」

 

そう言って、先生は、うつ伏せになっている私に、鍼を打ち始めた。

「あなたは、身体が大きいから、標準の3倍の太さの鍼を打ちますから、ほっほっほっ・・・」

 

飛び上がるほど痛いのは「肝臓」だった。

「お疲れですねえ・・・痛いですか?ほほほ・・・」

 

彼女は先月、赤穂市の大石神社にお参りに行ったが、そこで「こびとさん」を見た、と言った。

「白衣のような、キッチリとした襟、胸元には金色の模様、五人並んでお在りました」

「なにか、会話されたのですか?」

「いいえ・・ただ、並んでおられただけです」

 

赤穂市の大石神社は、大石内蔵助、討ち入りの47人を合祀する、敬虔な場所。

わたしも一度行ったことがあるが、怖い印象を持った場所だ。

しかしなぜ?そんな場所に「こびと」が?

 

「もう一度、今度はご一緒に行きませんか?」と誘われてしまった。「はい、行きましょう」と即答したわたし。