16の夏に、自転車に乗って知床へ向かった。
その日、北海道は異常な高気温に包まれた。
冷夏しか知らない私は、今で言う、熱中症にかかったが、分からないで走っていた。
その夜、山道をトボトボ自転車を押して、歩いていると、小型のトラックが、後ろからやってきて止まり
運転手は車から降りて、私を怒鳴りつけた。
「何してる!ここは熊の縄張りだぞ!死にてえのか!」

私は神様に助けられた。
彼は、自分の下宿に私を泊めてくれた。
彼は、ビスケットを私に渡して「おれは、ちょっと一杯呑んでくるから、おまえは寝てな」そう言って、出て行った。

そのビスケットは湿気っていたが
ほとんどなにも食べていない、私の胃袋と、魂を癒やした。

彼は朝早く出て行った。
名前も住所も聞くのを忘れた。
いや、あえて聞かなかった。
この辺の考え方が、私は人より
おかしい。人よりも劣っている。

きちんと名前と住所を聞いて
あとから、改めて挨拶とお礼に
伺うのがスジだろう。
恐ろしく、悪い癖だ。

時より、チョイスを買っては
その人のことを、思い出し
手をあわせている。