北海道帯広市は過疎化が進む地方都市だ。
脳なし行政の無策は、駅前から人の熱を奪い、街を添加物満載のファーストフランチャイズの巣にした。
ところが、やる気のある若者たちがいて、手作り感の高い、小さな温泉を生み出した。
どちらかと言えば下北沢あたりにある、小劇場のような作りだ。
暖簾をくぐると、すぐ脱衣場、狭い。
ガラス戸の向こうが主浴槽。誰かいる、おじさんだ。ガラス戸のせいで下半身しか見えないが
彼はお尻を振り振り、桶を片付けている、散らばった桶をきちんと積み上げているのだ。
まめな人だ。
そう思いながら、ガラス戸を開けた。いない。さっきまで「働いていた」おじさんがいない。
主浴槽は4人で「満席」だが、波も立っていない。
独りで「満席」になるサウナがある、開けてみた、いない。ほかに出口も非常口もない。
この場にはわたし一人しかいない。