「ガチャッ。」

 いつの間にか、手錠をかけられるのにも慣れていた・・・。

少年院に移送される車の中、俺は引き裂かれた彼女の事を考えていた・・・。


 名前は麻美(マミ)。オナ中で、タメの気の強い女だった。麻美とは中学2年の時に付き合って、こうして俺がパクられるまで、愛を育んだ大切な彼女だった。麻美との恋愛のエピソードは語りきれないほど激しすぎる・・・。毎日一緒に行動して、義務教育に逆らい、大人に反発してシンナーを吸い、車やバイクを盗み、家出したり、毎日SEXしてやりたいように生きていた。俺は母子家庭だったし、麻美も片親で父子家庭だった。似たような家庭環境だからこそ共感でき、意気投合したのだろう。

 そんな二人は毎日同じ道を同じ歩幅で歩いていた。当然の事ながら、何度か警察にも二人で一緒に世話になっていた。その為、麻美の親父からは付き合うことを反対されていた。それでも俺たちは、反対されればされる程、お互いを思う気持ちが熱くなりさらに絆を深めた。

 中学3年になると、俺の部屋で同棲する様にもなった。喧嘩もしたが、本気で愛しあった。麻美が子供を堕ろすまでは・・・。


 

当時俺は中学3年だったが、学校には行かなくていい状態になっていた・・・。初めて鑑別所に入所し、その審判で審議された結

果、働く事に決まったのだった・・・。



14歳5月


「もう二度と悪さはしません。」

 涙を流し、必死で媚を売った結果、試験観察と言う処分で鑑別所を出所することが出来た。


 1ヵ月は猫をかぶり、1度目の審判はなんとか様子を見ようと言うことになった。しかし、良い子を演じるのには限界があった。やがてボロが出た。学校での暴力・傷害事件・シンナー吸引などを繰り返し俺は、教護院か、少年院に行くと言う究極の選択を強いられていた。

 最後の審判が下される日が近づくにつれ、俺は焦りに焦った。{麻美とは、もう離れたくない。でも義務教育にも従えない。こうなりゃ仕事するしかないな。そうだ、社会人になればいいんじゃ!!}

 そう思った俺は、母親の仕事を手伝う事に決めた。俺は教室にも入れない状況を説明し、勝手な言いがかりだが、先公の俺に対する差別みたいなものを主張して、母親を説得し続けた。

「何もしないよりはいいかもね。」「一度会社に聞いてみないとね・・・。」

俺は、少し希望の光りが見えた気がした。


 母親が親身に頭を下げてくれたおかげで、アルバイトとして手伝う事が許された。が、口うるさい母親と共に仕事をする空気は、かなりまずい。息苦しくて呼吸困難で死んでしまいそうになるぐらいストレスだった。結果3日も持たなかった・・・。

 

「教護院だろうが、年少だろうが上等じゃ!!ボケ~ッ!!」

俺は半ば開き直っていた。

「竜貴、私と離れてもいいの?」「マジ何考えてんの?」「男でしょっ!もっとしっかりしてよねぇ。」

麻美は、不安な気持ちを爆発させていた。そして、どうしようもない状況に二人は苛立っていた。幼いながらにも、本気で愛し合う二人は、互いが引き離されることが一番恐かったのだ・・・。


 現実を忘れる為に俺と麻美はシンナーを吸引することにした。ビニール袋の底の両端を玉結びして、ひっくり返して準備OK。押入れに隠しておいたシンナー(スリーナイン)を注ぎ、思いっきり吸い込んだ・・・。

 薄れ行く意識の中で、俺は恐ろしい幻覚をみた。悪さばかりしている俺を迎えに来たという死神の霊・・・。麻美と引き裂かれ、麻美が他の男に抱かれてる・・・。俺は現実から逃れる為にシンナーに酔いしれるつもりだったが、審判の事が頭から離れない。押し寄せる不安と恐怖。逃れられない現実。シンナーによる狂った思考回路が、俺の精神を破壊した。

「麻美!!お前俺を馬鹿にしとんのか?」「お前は俺と別れたいんか?」「何故大人は俺を縛り付けるんじゃ」「お前も俺を売るつもりだな?」

 俺は不安や恐怖のしがらみを麻美に押し付けようとした。麻美の視線が凍りつくように冷たくて、やるせない気持ちが爆発した。「もういい。もう誰も信用できねぇよ!!」「死んでやる。」「自殺して後悔させてやるっ!!」

そう俺は、発狂して、洗面台からカミソリを取りだし、手首をかっ切ろうとした。が、ためらってしまう・・。それでも俺は、負け犬の様に吠えまくる。

「麻美!今までありがとな!!「耳の穴かっぽじって良く聞けよ!!」「俺は死んでもお前を愛し続けるからな!!」「審判なんかくそくらえじゃぁ~~いっ!!」

 勢いに任せてカミソリを手首に押し付ける。うっすらと血が滲む・・・。死ぬには程遠い傷だった。その姿をみて、今までクールな麻美だったが、鬼の様な形相で俺を睨みつけ、「バッチ~ンッ!!」俺の右の頬をビンタして、叫んだ!!

「ぶつぶつうるせぇなぁ~!!」「死にてぇんなら早く死ねよっ!!」「男だったら潔く切れよっ!!」「できねぇ~んならやってやるよ!!」「ちょっと貸してみなっ!!」

次の瞬間!!俺からカミソリを奪い取ると、力いっぱい俺の左手首に押し当てた。

「ザクッッ」

はっきりとした音だった。みるみるうちに手首から溢れる出る血液を見て、俺は麻美の恐ろしさを改めて実感すると共に、勢いよく流れる血液を見て初めて死を覚悟した。

「麻美。ごめん。俺やっぱり死にたくない。」「死にたくないよ~っ。」「ごめん。俺お前と離れたくないんだよ~。」

俺は声を出し泣いた。血まみれになり俺は泣き崩れた。麻美は俺の腕を服で縛りつけ止血しながら優しく俺を諭すように呟いた。

「もう二度と死ぬとか、言わないで。」「かっこ悪いよ。」「これだけは忘れないで、私は竜貴の味方だから。」

俺は母親に抱かれる赤ん坊の様に麻美に抱かれながら、救急車で病院に運ばれた・・・。