審判が下された俺は、納得いかないまま、鑑別所へ帰ることになった。

気持ちの整理もつかず、不安も隠せず、{シャパにはしばらくもどれねぇな・・・。}{これからどうなるんだろう?}{考えてもしゃーねぇ。}{脱走するか?}{いや無理だ。}{なんとかなるか・・・?}などと、自問自答していた。

 鑑別所につくと所員の先生が、笑顔で出迎えてくれた。

「お疲れさん。じゃあ服着替えて・・・。」

俺はまた、鑑別所の地味な紺色のズボンとカッターシャツに着替えた。

所持品や金品などを預けて、2階の単独室203に押し込められた。

手続きやら、役人の都合で、俺が少年院に移送されるのは、3日後と告げられた・・・。

 

タタミ3畳ほどの狭い部屋は、急に寂しさを引き寄せてくる。頭の中が真っ白になり現実を受け止められずにいる。

強がり隠してた気持ちが俺の心を支配した。

「マジかよ・・・。」

今にも涙がでそうな暗い奈落の底に落とされた気持ちになってしまう。

「ふーーーうっ。」

ため息しか出なかった。

逃げることは許されない。ふさぎこんでも仕方ない。なるようになるしかない。俺は開き直ることで自分を鼓舞した。

 

 移送されるまでの3日間、俺は少年院とはどんな所だろうか?その疑問で一杯だった・・・。

イメージは色のない世界。俺よりも悪い奴らが沢山いて、自由のない鉄格子の中で矯正教育を受ける・・・。こんな感じだろう・・・。胡坐かいて、腕を組み色んなことを想定して考えていた。いじめられない為にも、なめられたらあかんな。最初が感じんだな。などと、策を練っていた。また、運動などの時間に、共犯である先輩・金ちゃんや、この1ヵ月余りで仲良くなった奴らと接触をし、審判の結果を互いに報告したりして、お互いを励ましあった。ちなみに金ちゃんは、短期少年院だった・・・。やはり、初犯は軽いみたいだ・・・。何故俺は、長期なんだろう・・・? 考えながら景色を眺める・・・。

 窓の景色は鉄格子に邪魔されて癒されやしない、俺はこの鑑別所で飼育されてるウサギに唾をひっかけて暇つぶしていた。

鑑別所内では、この飼育されたウサギは食用と言うのがもっぱらの噂で、夕食に肉が出ると、またウサギの数減ったな。などと言う会話が当り前の用にされている。信じるか信じないかは、そいつ次第と言うぐらい適当なものだ。

俺は、{もうウサギの肉は食う事はないな・・・。おいしくなれよっ。}そんな事思いながら、唾をひっかけてはしゃいでいた。

すると、下の階の奴が先生に文句つけたらしい・・・。

「あいざわっー!!」「きたねぇ真似すんじゃねぇ。」

俺は怒鳴られた。ムカついたと言うよりも、くだらないことで叱られ辱めを受けた感じになった。俺のストレスのはけ口を奪った下の階の奴が許せなくなった。 鑑別所最後の夜、眠れぬ俺は床を思いっきりジャンプして、「ドタン・バタン」足を踏みつけた・・・。騒音で、下の階の奴に嫌がらせして、鑑別所生活に幕を閉じることにした。

「安眠妨害じゃ!!」

「俺は明日年少行くんじゃ!!」

「バ・カ・ヤロ~~~~!!!!」

「俺はアイザワ・タツキじゃ!!ボケーッ!!」


「コラーッ!!あいざっわっぁ~!!」

怒号が鳴り響く・・・。


次の日俺は、荷物をまとめ少年院に行くための準備をした。最後の夜も俺らしく、暴れる事ができた。少年院への生活も何とかなりそうな気がした。やはり、どんな環境だろうが自分を捨てる事だけはしないぞっ。と心に言い聞かした。自分を捨てたら負けだと・・・。

 時間になり1階に降りると自分の部屋の下の階の奴の顔が気になった。俺は103の単独室の前をゆっくりと歩き中の野郎を確認した。頭は坊主だったが、見覚えのある顔だった。視線を感じたのか目が合った。次の瞬間。

「ヤバイッ。」

間違いないっ。その顔は地元じゃかなり名の知れた、チンピラの風貌の戸川くんだった・・・。俺は血の気が一気に引いてくのがわかった。{やべぇ。絶対シャバであったら殺されるっ・・・。}俺は少年院に行くことが少し嬉しく思えた・・・。が、その反面恐ろしくなった。

 あの極悪なチンピラの風貌の戸川君がいるなんて、世間はせまい・・・。少年院にはどんな恐ろしい奴らがいるんだろうか? 俺は、かつて経験したことのない少年院という名の、隔離された世界が恐ろしくとても不安で恐かった・・・。だが、自分の犯した過ち、被害者の痛み、親の涙、罪の償い。そんな事の意味や反省は、これっぽっちも頭にはなかったのは、事実だ。