おかっぱ頭がよく似合うまだ三歳になっていない男の子。紺色の触り心地良さそうな麻の法被かのような和風な服を着こなしている。その高級そうな紺色を背景に、太陽と、満月と、三日月と、地球との柄が織っており、宇宙にひらめく星たちを力も使わずに贅沢に集めたこの幼児とはじめて会った僕は教師としての立場だった。教師というか、事務所で正社員としてに働きはじめる前に、たまたま知り合いを通して家から地下鉄で約一時間軌道を轢くたびに擦られてくる騒音と混雑を耐えなければならないというやや離れている私塾である。私塾だと言っても、たいした有名校とか高校生向けのところではあるまい。苦手でもないが、特にかわいいとも感じなかった幼児と付き合うところである。まだ社会に求められる男前に見せかけなくて良い、言葉を発さなくても許される年頃のこの眼の前の幼児はなぜかいつもより私の瞳に可愛く照りつけた。

 

真っ白な漆喰の壁に囲まれ、またしも真っ白な証明に照らされるこの教室は退屈に感じさせる空間に過ぎない。来させられる幼児と居させられる教師、誰でも最初は言葉を使わない。幼児にとって、言葉は使うべきではない。真っ黒かつ円滑なおかっぱ頭が頭上の真っ白なスポットライトを照り返して、マスクを着用しているせいか顔が見えない分小さな瞳でもきらきらして見える。

 

「お名前はなんですか、坊っちゃん。」

 

わたしは子供への憎悪を取り掬って、やさしそうにみせかけて新成人の男性に似合わないと思われるだろうな声で自ら幼児に話しかけた。その幼児からの返事はなかった。

 

わたしは焦らずに、ただそのかわいいらしい法被に見つめ、黒に限りなく近い宇宙の中に遠いところへと吸い込まれそうな星たちの居場所や意味を、この子はいつになったらわかってくるのだろうと考えていた。わたしは、未だに答えを見つけ出そうもない。