星新一気まぐれレビュー06
~短編ドラマ感想part6~
※ ネタバレ有です。ご注意ください。
「 鍵 」
7月26日放送。
ある日偶然に鍵を拾った青年(玉山鉄二)。
いわゆる今どきの鍵のかたちではなく、なんとなくアンティーク調。装飾が施されていて、どことなくいわくありげな感じ。
男は一体なんの鍵なのか知りたくてたまらなくなり、以来どこへ行くにもその鍵を持って回り、試せる鍵穴を片っ端から試していった。
しかし、鍵に合う鍵穴は見つからないまま、何年も何年も時が経ち、青年はいつのまにか老人になっていた。
男は考えた末に錠前屋に行き、「この鍵に合う錠前を作ってくれ」と頼む。
そして錠前は出来上がり、男はドアに取り付けたその錠前を例の鍵を使って開けてみた……。
元がすごくいい作品なので、このドラマも悪くはない。
鍵穴を探して世界を巡ったりしてる様子がなんだか古風なコメディのようになってるのだが、別に雰囲気を壊してるというほどでもないのでまあよし。
鍵を開けるとすぐに女神がやって来る。原作はその日の夜にやって来るのだが、これもまあよし。…と言うか、さっさとやって来るのは別に悪くないことだと思う。
原作通りに「思い出は既にもっている」という言葉で終わってくれてよかった。女神のリアクションなんかが入ったらぶち壊しになるとこだった。
余韻が残るのがいいよ、やっぱり。
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拾ったとこなんで汚れてます
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鍵を開けるとそこには……
「買収に応じます」
8月2日放送。
ある夜、サラリーマンの男(田中直樹)のところに死神(加藤諒)がやって来る。
「まだ死にたくない!」と必死になる男。だが話していくと、「金でなんとかできますよ」ということが分かる。
これだけが楽しみという感じで貯めて来たお金を差し出す男。死神はそれを受け取り帰って行く。
ほっと安心する男。
だが一年後、死神はまたやって来た……。
たった2ページのショートショートをよく15分のドラマに仕立てたな。
田中直樹の日常を描くことで、その時間が埋められている。
大気汚染と田中直樹は、結局なんのかかわりもないようだ。また、田中直樹のへそくり程度で大気汚染に歯止めがかかるとも思えない。
この原作が収められた「さまざまな迷路」は1972年の出版。なのでたぶん執筆はその前年くらいか。光化学スモッグの日本初報告があったのは1970年なので、その影響を受けているような感じがする。
死神たちが、組織ぐるみで世界中の大勢の人間からお金を搾り取ってるんなら、大気汚染にも歯止めがかかるのかもしれないが……。
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貯まったへそくりをチェック
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それっぽくない死神参上っ‼
「処 刑」
8月9日、8月16日、前後編に分けて放送。
罪を犯した男(窪塚洋介)。少しの食料と水が出て来る金属の球だけを持たされ、廃棄された星に追放される。
金属球にはボタンがあり、それを押すことで水一口分が出て来る。だが何回目かにボタンを押すと広範囲の爆発が起きるようになっている。ボタンを押せる数は決まったものではなく、完全にランダム。もちろん処刑される者にその数は分からない。
金属球は壊せず、壊せたとしても爆発してしまう。ボタンは生きた人の指でしか押すことはできなさそうで、他人に無理に押させることもできない。
そのため、人は渇きに耐えかね、心臓の止まる思いで、毎回そのボタンを押すことになるのだ……。
ストーリーはいたってシンプル。ただし原作は29ページもあり、ショートショートとしては長いモノのうちに入る。
それは主人公の男の心がゆっくりゆっくり壊れていく過程を細かく描写していってるために他ならない。
ドラマの方も前後編に分けられ、男の苦悩や焦燥感などをがんばって描いていると思う。
ただここでも製作費の関係かしらん、原作にあるように廃墟の街を巡り歩いたり、そこで先にこの星にやって来た人との会話とかがあったり……というのが抜けてしまっている。
主人公は、今の処刑を受けている毎日と地球での毎日とは、基本的におんなじものじゃないのか、地球では死が隣にあることなど特に意識しないというだけなんじゃないのか……という悟り?を開き、ボタンを連打して最後のシーンを迎える。
そのためには主人公に地球での生活と重ね合わせて考えさせるような道具立てが必要であり、廃墟の街のセットはやはり必要だったということになるかなあ。
窪塚洋介くん、熱演だと思います。
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金属球、結構大きいです
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この水金属球から出しました
今回はここまで。ドラマレビューはひとまず終わりです。次回は先日行ってきた車中泊旅の旅日記になります。