とんぼのめだま〈4-1〉 | たつみ〈手仕事と日々の記録〉改め〈日常♡〉

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余暇を楽しむひとり暮らしのあれこれ…ハンドメイドやドール・お出かけ…そんな日々を綴っています。
亡き父が過去に執筆した自叙伝『とんぼのめだま』もアップしています。

 【生い立ち】


 昭和24年7月。姉さんたちの仕事が少しおちついたので、とりあえず「いさ子・ひとりだけ引き取りに行く」と連絡があった。

 開校中に転校の手続きをとり、夏休みに君子姉さんが迎えに来た時点で、いさ子ちゃんは大阪へ帰ることになった。


 8月1日。仲良しだった大谷の友達も盛装をして、いさ子ちゃんとの最後の思い出に錦の御奉殿へ遊びに行った。


 その時の記念スナップが下の2枚の写真である。




 いよいよ、いさ子ちゃんが帰る時…ションボリとする男の子・2人。
「ーー純と昭雄ちゃんは男の子やよってに、もう少し田舎(ここ)でガンバらなアカン!」
「… … …。」
 姉に、はっきりと断言をされた2人は、以前にも増して私の弟(純ちゃん達の叔父、昭太郎さん)にピッタリついて山へ、川へ遊びを求め飛び出して行ったものの、子供向けの遊具も環境もそして設備など、現在のように整っていない当時の、彼たちの遊技(あそびごと)は限られたものだった。…反面、田舎には四季それぞれの情緒が存在した。私はその思い出を大切にする。

 …弟は板切れで子供が乗れるくらいのソリを作ると子供たちを乗せ、引っぱって遊ばせていた。が…。
 このソリ遊びでも、乗せて貰うほうはラクチンこの上なし、だが引っ張る者は疲れるだけで面白くない。
 そこで考えた彼は、胴切り丸太に穴を開けた〔木製の車輪〕を付けてみた。
 と、走りの軽さは以前のソリとは雲泥の差があった。
 彼はその進歩にすこぶる満足したが、今度は(自分が乗れないか?)と欲がでる。
 なだらかなズリ山の、はるか中腹までそれを引きずり上げ、コースを見定めて台車の上に腰を落した。
 両足のかかとでスピードを加減(セーブ)し、なんとか体のバランスをとりながらズリ山を下って行く…。ーーしかし、何度やっても搭乗者の彼は(やみくもに直下降をする台車から)右に・左に振り落された。
「…舵取り器(ハンドル)が必要(ようなん)だ!」
 そう考えた彼は、前輪の受け軸をフリーにして、センターの1点をピン固定した新案の〔舵付き台車〕を作った。が、その1台目は強度不足で、子供(純ちゃん達)を乗せただけで前輪のシャフトが折れた。
ーー壊れた原因を考え、丈夫な部品とその取り付けに神経をつかい、何ヶ所かの改善をしては、また組み立ててみる。
 この繰り返しの毎日が続き、夏休みも終わりになるころ、Y字形をした自然木の先端に前輪を並列に2個装備をした〔方向可変式木製カート〕の完成を見るに至ったのである。

 弟の友人たちも、このような木製カートには興味があり大小・軽量、それぞれ自慢の箱車(もの)を持っていたが、操縦が可能なものはまだ1台も無かった。
ーー今でも私の記憶に残っている斬新な構造は脱帽ものだった。
 しかしこの〔方向可変カート〕を乗りこなすには、かなりの技を必要とした。
 真ん中の舵棒を右にやれば、車輪は逆方向の左に向くからである。
 自転車の舵取(ハンドル)とは正反対の操作をすれば良いのだが(理屈では分かっていても)そうは行かない。
「本人が乗らんにェーンでは、話に無ンねェー!」というハメになった。
 発明した者のこだわり(この操作を会得するには、本人が体を使って覚えるしかない)…。
 弟は何度も何度も滑っては転び、転んでは滑りして、ついにその操作の勘どころをつかみ、自分の思う方へと自由自在に乗りこなせるようになった。
 弟はそれから毎日、2人の甥に乗り方の特訓。ゴロゴロ、ワイワイ。ああだ、こうだと3人は連日大騒ぎをしていた。

 だが、まだ小さい1年生の2人には、この操作は至難の技だった。

 さて、塩沢の生活では、毎日・毎日、嫌でも聞こえてきたのがトロッコ巻上機のガランガランという金属音だった。

 純ちゃん、昭雄ちゃんの2人はマッチの空き箱を何個か糸で連結、カタンの糸巻きでかわいい巻上機を組み立て、庭の隅に小さなズリ山を作って〔トロッコ巻き上げごっこ〕をして遊ぶ。
 子供の純真な感覚は、その目で見たものをつぶさに吸収し、のびのびと発展させる。そして瞬く間に、自分なりの遊具にして楽しむ天才である。
 夏が去り秋も行き、冬がおとずれる。山の雑木林へ焚き木拾いに行く。
 谷間の奥…。そこで偶然発見したものはレンガと泥で作られた炭焼き竈(かまど)だった。
 2人は興味深げにこれを見ていたが、やがて弟の手ほどきで〔ミニチュア炭焼き竈〕を作り始めた。その珍しい製作工程に、寒さもいとわず嬉々として叔父の指図に従い、何日もかけて完成させた竈の焚口(たきぐち)に、彼らは心躍らせて点火する。
 かわいい小さな煙突から「ふわふわ」と吐きだされる…か細い煙。その煙の色の中に3人の少年は『ひとつの物事をやりとげた』という強い満足を感じていた。

〈4-1〉【生い立ち】 終わり