あなたは初めて絶頂を感じた瞬間の事を覚えていますか?



眼前に迫るような多幸感に全身を包み込まれ

歓喜に初めて身を震わせたあの瞬間。



それまでのあなたはあの日あの時に壊れて

そして別のあなたとして生まれ変わったの。







月の満ち欠けを日本人は愛でて

月の満ち欠けに季節を映すけれど。




私にとって初潮が来てから月はマスター(主人)のような存在だった。




何故かって?


女は月の満ち欠けを体に投影するかのように

その満ち欠けのサイクルに沿って生まれ

死んで行くから。



上弦の月は処女を現し

満月は母を象徴する

下弦の月は老婆。



そうやって教えられて育って来たから。


月は私にとって女という性の象徴であり。



そして残酷な程までに淡々と

女として枯れ

終わり行くその日をカウントしているかのような存在だ。



自分の生は月というマスターの手の中に在って肉体や精神に影響し

支配されているとさえ錯覚する。




いいえ、支配されている。



女という性の星のもとに生まれた全世界の女たちはみんな。




誰1人としてその支配から逃れる事は出来ない。




潮の満ち干きさえも

地球の生きた営みはすべて

月の影響下にあるのだから。




そんな風に感じているのに。


処女喪失の時の事は深く覚えていないのだ。






女性は生きている中で必ず「女になる」分岐点に差し掛かるもの。



女になる分岐点とは処女喪失の事ではなく。


誰かによってもたらされる絶頂を知る事。


オーガズムに達する事だ。



それくらい女性が絶頂を迎える事は簡単な事ではない。



そして女なら誰しもがその分岐点に気づける訳でもなく。



たとえ子供を産んだ後でさえ。



未だ絶頂という感覚を知らない女性も存在する。




だけど私は気づいてしまった。




強いある種の殺意に近い執着的な眼差しが視界に絡み付いた時に。



振り切れない程の相手だと直感した。





「あなたいい目をしてるわね、お名前は?」




私が本当の意味で女になった分岐点に居た人。



彼女の名前はエリと言った。



「サキと言います」



「そうサキちゃんって言うのね。

私と一緒にちょっと変わった面白い事しない?」




処女喪失の記憶なんか霞んでしまう程。




私の中で未だに大きな月として

エリは私の手網を握っている。




そして私はエリになりたくて

こうして今日ももがいているのだ。