アカデミー賞・国際長編映画賞/音楽賞W受賞作品。カンヌでもグランプリを受賞しています。余り映画の賞には興味はありませんが、アカデミー国際長編映画の予想ではダントツでコレだろうと言われていた作品ですので、流石に気になっていました。

劇場予告も何度か観たし、ポスターにも書かれているので、アウシュビッツ強制収容所の隣で暮らす家族の話しと言う事、そして「関心領域」となれば、壁の向こうの惨劇を何事も無い様に暮らす家族の、その無関心さを描いた映画だろうと思っていましたが、実は原題の「The Zone of Interest」はナチス親衛隊がアウシュビッツ収容所を囲む40平方キロメートルの地域を表現した言葉なのだとか。実際にあんな風に壁一枚を隔てて暮らしていたと言う事はないのでしょうが、言葉自体は実在していたと言うのも驚きです。


まず冒頭、画面は真っ黒のまま、"ヴォーン、ヴォーン"と低く嫌な音が長く続き、やがて鳥の囀りが聞こえて、白人家族の水辺のピクニック風景が現れ、裕福そうな家族の幸せそうな日常が綴られます。やがて夫が仕事に出かける段になると、彼が着用しているのはナチス親衛隊の制服。屋敷の塀の向こうに垣間見えるのは何処か見覚えのある、薄汚れた煉瓦造りの建物。想像力をフル回転させられる状況ですが、事前知識があるので「あゝ…」と納得しながら観ているる訳です。出来れば想像力をフル回転させながら鑑賞したかったですが。

時折り聞こえる塀の向こうの不穏な音、煙突から上がる煙、夫がそこの所長である事、品の良さそうな妻は屋敷の使用人には無慈悲である事、その様な状況から色々察せられていきますが、相当満足そうな妻に対して、夫は終始無表情。実は彼はこの任務を解かれることを望んでいて、ついにその辞令がおりますが、妻は"やっと手にした満ち足りた場所を離れたくない"と言い、夫の新任先にはついて行かない選択をします。

実際のアウシュビッツ所長であったルドルフ・ヘスもそうであったらしく、更には妻も映画同様、「関心領域」に残ったのだと言います。

戦犯として処刑されたヘスは有名ですから知識として知ってはいました。勝手にヒトデナシと決めつけていましたが、実は相当に心はやられていたのでしょう。それはちょっとオドロキでした。同時に妻・ヘートヴィヒ・ヘスのなんとグロテスクな事か…


しかし翻って現代の我々はどうなのか?

ウクライナやパレスチナでの事を「関心領域」にしてはいないか?遠方から眺めながら眉を顰めていて良いのか?

具体的にどうこう出来る事ではありませんが、考え続ける、忘れない、それだけは心掛けたいものです。


物語の不気味な導入部も、一度も映さない収容所内部も従ってその悲惨な状況も、しかし最後にはそれが招いた大量の死をキッチリ映し出して見せた演出も、苦悩を抱えるヘス役・クリスティアン・フリーデルと、人間の醜さを当たり前のように演じた妻役・サンドラ・ヒュラーも、お見事!でした。


…なんて事を言ってますが、映画としては"好み"ではありませんでしたとさ ʅ(◞‿◟)ʃ