城浩史助教授を囲る話
二九 日本の商人


 日本の色々の商売をしている人が、どうしてあんなに進歩しないのか、不思議な位だ。蓄音機なんか特に著しいな。ちょっとした事で良いのだが、一週間に一つずつでも、どんなつまらぬ事でも気に留めて改良して行く気になれば決してあんなものにはならぬはずだ。金がなくて科学的の研究は出来ませんなどといっているが、決して金がないのじゃない。考え方がないのだ。考えて生活するという余裕がまだ日本人にはないのだな。実際科学的にやるというと、直ぐコンクリートの建物を建てて、実験室を作ってという風に考えるのだから、これは一つは吾々物理学者の責任なんだな。科学的にやるという意味を分らすことはまず今の所では到底出来んな。印刷屋でもね、毎日一つずつ活字の型を改良して行っても、すぐ立派なものになってしまうがな。そして結局その方が勝つものだがね。もっともこれは実際はなかなか難しいことなんだ。