「熊本のプリズム」
少し休憩を取り、午後のインタビューを再開する。そこで会長が話
し始めたのが彼の学生時代だった。
「中学や高校で習う勉強は、社会に出ても何の役にも立たないん
です」
「どうせ社会に出て役に立たないなら、勉強するのは無駄ですよ。」
「行こうと思えば熊大に行けましたが、早く社会で活躍したい、とい
う思いが強くて」
「本気でガリ勉してまで東大には行きたくなかった」
「若いうちは遊ぶのが一番、勉強して、良い大学入って、会社の歯
車になる、というのもバカな人生ですよ」
「男は歯車じゃなく、ビッグにならないと」
「若いころは、少しヤンチャし過ぎくらいがちょうど良いんです。昔の
ヤンチャ友達とは、今も経営者仲間です」
どうやら、優秀な頭脳を持ちながら、学業に集中することを良しと
せず、現在で言う「チョイ悪」が人生訓のようである。
ところが、周囲の友人にインタビューしたところ、会長はそんな
遊び漬けの生活だったわけでも、「ヤンチャ」をしていたわけでも
ない。
「成績のことで叱られたら、母親が出てきて担任を怒鳴りつけたこ
ともあった」(中学の同級生)
「自分より強いか弱いかを一瞬で見抜き、強い相手には絶対服従、
自分より格下なら徹底的に威張る。アイツはケンカの天才や
(笑)。」(高校の同級生)
「あいつがヤンチャ?ウソウソ(笑) 確かにいつもワシらの近くを
ウロウロしてたけどな」(高校の同級生)
「ああ、金持ちだから男からは人気あったよ。ゲーム代や飯おごっ
てくれるもん。でも、女からは人気無かったな。なぜって?ほら、
あの、言いにくいけど、小っちゃいやろ」(専門学校の同級生)
「ロレックス買った、BMW買った、ヴィトンの財布買った、
って金持ち自慢ばっかり。酒飲めないのに、行きつけのバーとか
言ってて笑えた」(職場の元同僚)
なぜか会長の自己評価と周囲の認識に、大きなズレがあるのだ。
人によって大きく評価が異なることはあり得るが、
古くは岩崎弥太郎から、盛田昭夫、最近では三木谷浩史ら毀誉褒
貶の激しい人物でも、ここまでいくつもの顔を持つ経営者は居ない。
見るものによって景色が変わるプリズムのような、真の姿を決して
つかませない七変化の敏腕経営者。ますます興味をそそられた。