-2015年発足のアセアン経済共同体の動向- 5 (最終回)
駄目だった。 頭のなかであれこれ考えてるうちに尾浦会長は
もう目の前に立っている。 そして私が口を開くよりはやく言葉
を発しようとしている。
失敗だ。 私から先に挨拶しなければならないのに、、、、、、
しかし、私の記者としての勘が警笛を鳴らした。
「尾浦会長は私の緊張をほぐす為にあえて先に挨拶をしようと
している。遮るな! あとに続け」
と。
そうだ。 尾浦会長の挨拶に続けば良いのだと。
想像してもらいたい。 プノンペン国際空港に響くハーモニーを。
尾浦会長と私が奏でる「チョムリアプ スーア」のハーモニー。
人間の本能ともいえるだろう。 心の琴線に、、、、、、
そう、私の本能が求めている。 尾浦会長に続け。
さあ、、、、尾浦会長言って下さい。 「チョムリアプ スーア」
奏でてください 「チョムリアプ スーア」
私は30CM程低く姿勢をとるために中腰になって構えている。
尾浦会長の顔は私の目の前だ。
尾浦会長の口元の髭がまるでバイオリンのように震えている。
顎鬚はまるでチェロのようだ。 頭髪も合わせると自前で三重奏
を奏でる勢いだ。
ついに尾浦会長から御言葉が発せられた。
それは私の想像を絶するメロディーを奏で、私は言葉を失った。
ハーモニーを奏でることができなかった。
私は立ち尽くしている。 笑顔の尾浦会長のまえで私は呆然と
立ち尽くしている。
昨夜の電話から今さっきまでの出来事がまるで走馬灯のように
頭を駆け巡る。 まだ、なにも始まっていなかったんだ。
記者の勘がそう伝える。
これからの取材が今までの私の経験を遥かに超える恐ろしいも
のだということの片鱗を見た。 いや、感じたんだ。
プノンペン国際空港に尾浦会長のメロディーがこだまする。
そう彼は言った。 尾浦会長は間違いなく言ったんだ。
このこだまするメロディーを尾浦会長が奏でたんだ。
そう立ち尽くす私に尾浦会長は再び挨拶をしてくた。
尾浦会長自身が奏でたハーモニーがこだまする。
「アンニョンハセヨ」、、、、、、、「アンニョンハセヨ」
WEB 赤旗 特別コラム 金梨