いろいろずかん-北上村役場


評論家ではないので評論するつもりはまったくありませんが、先日懇親会で話題となったので、これから10年くらいの間に問題になるであろう第二次世界大戦後に建てられた建物の文化財指定について考えてみたいと思います。

国登録有形文化財制度は、建築後50年というのをひとつの目安にしています。ということは、今は2010年なので1960(昭和35)年に建てられたものまでが、国登録有形文化財の候補になります。そうなると、実は新たな種類の建物が候補の可能性を帯びてきます。そのことを何回かに分けて考えて行きたいと思います。


まず、最初は、戦後の建物で文化財となっているものを紹介します。

写真の旧北上村役場(宮城県)は、昭和32年に上棟、昭和39年に増築された建物で、設計者は東北大学を出た川名省一です。現在は、登録有形文化財に登録されています。

この建物のいいところは、資料から由緒来歴がはっきりしているということです。図面もあり、設計者も地元宮城県出身であることがわかっています。これは、とても重要なことです。屋根には、地元の雄勝石の天然石スレートが用いられ、種類も数少ない公共建築です。ただし、窓はアルミサッシに更新され、増改築も行われています。

立地環境は、おそらく当時から大きくは変わっていない良好な状態です。この頃までは、背景の環境に適した設計をするということが高い確率で行われていますが、この建物も同様だと思います。

資材の乏しい第二次世界大戦後の復興期と、高度経済成長期に向かうまでの岐路にある建物なので、そういう意味では時代もよく反映している建物です。戦前、戦後すぐは、実は資料も十分でない場合が多いです。

このように、旧北上村役場は諸条件が揃っています。天然石スレートの産地で、それを生かした建物になっていおり、環境にも適合しています。こうした点では、登録有形文化財としての条件は十分に満たしています。登録理由は、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。