昨年一門を離れ「文字助組」なる組織を旗揚げ(揚がってるのか?)した桂文字助師にはエピソードは多い。
大半は酔った挙句の乱暴狼藉が核になっているからあまり積極的に紹介したくはない。家元も生前手を焼いていた‥と言うより呆れかえって放置していたと言った方が実相に近いかもしれない。
とかく喧嘩やトラブルやしくじり沙汰には事欠かなかった。
90年代半ば頃だったと思う。当時の文字助師の生命線とも言える「大お旦」が区議会議員選挙に出馬した。お旦の大勝負であるから文字助師は選挙事務所の番頭さん役を買ってでて選挙対策本部長として陣頭指揮を執っていた。丁度その選挙が夏場の中元の挨拶の時期と重なり文字助師に夏の挨拶をしようとて品物を携えて師の元を訪ねた若手噺家がいた。
選挙事務所に赴くと文字助師は若手にこう囁いたという
「おい、今俺に近づくんじゃねぇ‥その品物も決して俺に渡すな‥そのまま持って帰れ」
「???‥どうしてですか?何か私しくじりましたか?」
「そういう訳じゃぁねぇ‥おい、あそこの電信柱の陰のとこ見てみろ‥‥‥人が居るだろ?ありゃ刑事だよ‥張ってやがんだよ‥選挙中に金品のやりとりがあった日にゃあすぐに選挙違反で挙げてやろうって肚だよ‥だから今は紛らわしい真似はやっちゃぁいけねぇんだ‥ここの事務所の本部長ってことは俺はこの選挙のキーパーソンみてぇなもんだからよ‥」
誇らしげに語る文字助師であり確かにその指差す先には刑事らしき人影も認められた。しかしこの囁きを聞かされた若手は即座にこう思ったという。
「刑事?選挙違反?‥‥師匠‥別件じゃあないですかね?」
因みにお旦は見事当選を果たし区議会議員として永く重責を務められました。文字助師が選挙のルール違反に問われることはその後もなかった筈です。選挙の場面以外でのルール違反は‥‥‥‥言わぬが花でありましょう。