遠い昔‥練馬の果てで‥エピソード33 | 立川雲水のブログ

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その昔某国営放送で春風亭小朝師匠がMCを務めるバラエティー番組が制作されていた。メインコーナーは『私は百歳」というインタビューコーナーであり小朝師匠が百年以上生きてきた人生の先輩にあれやこれや訊ねて珠玉の様な或いはトンチンカンな答えを引き出すという番組であった。この番組3年ぐらいは続いたのではないかと思うのだが最初の1年だけ筆者は番組アシスタントの若手噺家5人組の1人として番組に参加していた。某国営放送がどういう意図で筆者を起用したのかその真意はわからない。起用された時も下ろされた時も何も聞かされなかった。ま、テレビ番組なんてそんなもんである。

で今回はその番組収録中に体験した出来事。その日のゲストの百歳オーバーのお婆ちゃんは元数学教師だったとやらで現役を退いた今でも中学受験レベルの数学問題ならばお茶の子さいさいで解いてみせるというのだ。本番前のリハーサルでは成る程見事なもので極簡単なものとはいえ因数分解の問題をあっさりと解いてみせた。この調子で本番参りましょうとなったのだが何事も思惑通りに進まないのは世の常である‥お婆ちゃん、リハーサルの時とは打って変わって本番では会場に満杯の観客とフルパワーの照明光量にすっかりアガってしまった。更に悪い事にお婆ちゃんに解いて貰う数学問題は難易度こそ変わらないもののリハーサルとは全く違う二元一次連立方程式が用意されていた。

小朝師匠とのやりとりが進み「それではお婆ちゃんに数学の問題を解いてもらいましょう」とのことで問題文の記されたホワイトボードを同じくアシスタントを務めていた当時売り出し中の某若手先輩兄さんと共に舞台上に持って出た筆者。連立方程式を解くべくペンを握ってホワイトボードに向かったお婆ちゃんだが先にも言った通りガチガチのコチコチに緊張しており暗算で解ける程度の問題に全く歯が立たない。ホワイトボードを支えながら筆者は「うわぁ‥オモロイことになってきたがな‥お婆ぁウロがきとるがな‥スタッフも慌てとるがな‥これどう編集するつもりやろ?‥オモロイなぁこれ‥客は笑てないけどこんなオモロイ見せもんないで‥これ」てなもんでハプニングを腹の中で笑って傍観していた。

筆者が意地悪な一観客と化していた時にホワイトボードの反対側を支えていた若手先輩兄さんはマイクに拾われない音量とカメラのフレームから外れた角度から筆者に訊ねてきた「答えいくつ⁈答えいくつ⁈」

暗算で答えを出していた筆者は「この人何でそんなこと知りたがるんだろう?というよりこんなもん訊ねんでも答えわかるやろ」と思いながら「X=2、Y=3ですよ」と彼に教えた。私からその答えを聞くなり若手先輩兄さんはマゴマゴもたついているお婆ぁの元に駆け寄り「フムフムフムフム、はいはいはいはい」と一人小芝居をうちながら「え?おばあちゃん、もっと大きな声で答え言って良いんですよ!なあに?Xが2で‥Yが3ですか?師匠~!X=2、Y=3ですって!おばあちゃん声は小さいけどちゃんと解いてますぅ~!」

強引にお婆ぁの手柄を成立させてしまった。観客はこのトリックに気づいていないしスタッフもこのスタンドプレーに助けられたことであろう。収録はそのまま破綻することなく無事に進行した。

その後この先輩若手兄さんは瞬く間に出世の階段を駆け上がって行って今も活躍中の由。大変に慶ばしいことであるし立派なことである。

そして色々な意味でテレビって面白くねぇなと筆者が感じた瞬間であった。