時代劇映画 全盛期の頃、、
阿吽の金剛力士像の如く
圧倒的存在感の
お二方が おられました
山の御大・北の御大
(やまのおんたい・きたのおんたい)
この世界で
そう呼ばれておりました
山の御大は
片岡千恵蔵さん
北の御大は
市川右太衛門さん
ちょっと待てい
対極やったら
「北と南」 とか
「山と海」 ちゃうんけ!
とかいうツッコミは、
まあ、、、置いといてください。
兎に角、
山と北。
お二方は、ぼくらの世界で
そう呼ばれておいでだったのです。
誰が何と言おうとも(笑)
お二方 大活躍の頃
僕はまだ 二十歳そこらの青二才。
勢いばかりの駆け出しで、、
お二方の存在も
その殺陣の技術も
雲の上の ものでした
時代劇ファンの方にとっても
このお二方は
絶対的人気だったと思います
僕ら世代では
あまり関われる事が なかったのですが
それでも
お二方の印象は
脳裏に焼き付いて消えません
山の御大・・・片岡千恵蔵さん。
世の娯楽が
映画からテレビに移ろい始めた頃、、
軍兵衛目安箱
世直し奉行
などを されておりました
この時、ひょんな事から僕、
殺陣で かからせて頂ける事になり、、
お話頂いた時から
緊張と興奮で
胸が高鳴りました
片岡千恵蔵さんの殺陣が
間近で見られるばかりでなく
かからせて頂けるなんて、、
本番当日、
現場で拝した ご尊顔
数々の作品で拝見した
そのままのお姿です
時代劇に憧れ、
チャンバラごっこに胸躍らせていた
ガキの頃さながらに、
ものすごい、ただただ純粋に、
カッコええ~!!
と テンションがあがります
こんな御大に斬って頂けるなんて、、
目を開けたまま夢が見られそうです
殺陣の手をつけてもらい、
まずは一通り、段取りテスト。
ひとつ、ふたつ、
チャン、チャリン、バツゥッ、、、
ん、、?
ちょっと違和感。
僕の覚えた手と、
御大から来る手が、なんか違う。
僕の覚え違いやろうか、、?
殺陣師さんに、手を確認します。
、、合ってる
僕の記憶は間違っていませんでした。
ということは、、
御大が手順を間違っておられるのか、、、
そう察した僕は、
殺陣師さんに耳打ちします
蘭:あそこの手順、
御大、間違っておられるのですが、、
殺:ええのや。
蘭:はい?
殺:ええのんや。
蘭:えっ、でも、、
殺:ええっちゅうたらええねん、
御大が斬らはったら、
お前はグワァ~、、言うて
バサァッ倒れたらそれでええねん!
なるほど、、
御大のなさる事が絶対。
技量に厳しい 当時のこの世界
よほどの存在の方でないと
こうは言ってもらえません
若い僕には
少々 解せぬ事でしたが、、
御大の繰り出す手に
臨機応変に応じて 返さねば。
未熟な僕には
それだけで 大変な作業です
まさか御大、
その都度、気分で手、
変えてきたりせえへんやろうな、、
予想外、が怖くって
こうきたらこう、
ああくればそう、
と、いくつかパターンを想定して
後は やってみてのお楽しみ、
本番を迎えます
よ~い、スタート
立ち回りが始まった途端
一瞬にして
御大を取り巻くオーラが 色を変えます。
その漲る気迫、
御大の背中に
火焔光背が見えるようでした
迫る御大、刀を振り上げ、、
バツゥッ、、!
あれだけ
想定 シュミレーションしたのに、、
僕、
ぐわあ!!
って、倒れる事しかできませんでした。
殺陣師さんの言う通りになってもうた、、
オーラで斬られては
<太刀打ち>出来ないのだなあ、、
と思い知りました
刀で斬るだけが殺陣ではない、、
相手を斬る 気迫
というものを 勉強させて頂き
御大のなさる事が絶対
と 言わしめた
その偉大さに 感服したのでした、、
そして
北の御大・・・市川右太衛門さん。
当時、
東映歌舞伎 という
東映の 銀幕スターさんを
一同に集めた
非常に豪華な舞台が
催されておりました
橋蔵先生にお付きしていた僕も
参加させて頂く機会があり
若輩ながら
【旗本退屈男】
のラスタチで
御大に絡ませて頂きました
しかし、当時の僕は
まだまだひよっこ、千鳥足。
御大の絡みを務めるには
まだまだ 技術も貫禄も足りません
舞台上を
縦横無尽に動き回るメンバーではなく、
舞台の端での参加です
殺陣師さんから、
ひとまずお前は舞台の上手(かみて)で
御大がブワーッ走ってくるのを
じぃーっと待って
来はったらワーッかかるんやぞ
とのご指示です
言われた通り、
御大を迎え討つべく
上手でスタンバイしておりました。
舞台上では
いよいよクライマックス、、
チャリーン、バツン、ズバーン!
大立ち回りが繰り広げられ、、
御大、さらに花道で大立ち回り
絡みの皆を
次から次へバッタバッタと斬り倒し、、
御大、ギィッとこっちを睨み付け、
まっすぐ僕の方へ走って来られます!
来た、、!
柄をぎゅっと握り直し、
御大を待つ僕
御大、来る。
どんどん、来る。
僕、ぎょっとして息を呑みました
僕より背が低いお方なのに
御大、みるみる、
ぐわぁぁっと大きくなるのです
来る、
来る、、
来た、、、!
その気迫に、
思わず一瞬怯みます
が
負けじと刀を振り上げます。
わああああああー!
コンマ数秒、
僕の鼻先数ミリを
御大の刀が
ヒョンッ と音を立て
空を斬りました
ひぐっ、、、
思わず息を呑み、倒れる僕。
本当に斬られたかと思いました。
倒れた後も
ばくばくばくばく、動悸が止みません
生きてる、、、(ホッ)
あんな 数ミリ先を
あの速さで 刀を走らせた
その技術も 衝撃でしたが
小柄な御大が
あんなに大きく見えた事が
僕には 大衝撃だったのです
内から出るもので
人って あんなに大きく見せられるんや
あれが
貫禄 ってものなんやな、、、
と、、
あの圧倒的存在感のワケが
十二分に理解できたのでした
いずれの御大も
そこに おられるだけで
場の空気を 引き締めるほど
技術・存在感ともに
偉大なお方でした
力を抜いて ラク〜に立っていても
背中に一筋
ピンと通っているような佇まいが
実に 恰好良いのです、、
ひと世代 違って
お仕事 ご一緒させて頂ける機会が
ほぼなかった 僕らの世代で
殺陣で絡ませて頂く
希少なチャンスを 頂けて
こんな勉強をさせて頂けた この体験は
今でも 僕の宝物です、、
もしも今
御大と 絡めたとしたら
僕、あの頃よりかは
太刀打ち できるかな、、、?