ニッポン人のセックスに明日はあるか

スローライフ　スローセックス：ニッポン人のセックスに明日はあるか

　結局はコミュニケーション能力の問題なのです。相手を気遣うがあまりにといえば聞こえはいいですが、曖昧な態度をとり続け、言うべきことも言えないというのでは、本当の意味で自分を守ることはできません。

　そもそもセックスとは真っ白なキャンバスにお二人で絵を描くような営みなのです。だから「ああしようか」「こうしよう」「それはダメ」とお互いの気持ちを表現することで、魅力的な絵が誕生するのです。男女ともにカラダのあちらこちらに存在する快感ポイント。医学的には自律神経の一種である迷走神経の走行に沿って、とかく不潔になりがちな皮膚の薄い部位、例えば、耳の裏や首筋、脇の下などに性感帯があると言われています。これだって感じ方には個人差があるわけで、一概には説明がつきません。会話を楽しみながら快感ポイント探しをするなんてことはお二人の営みとしてはとても洒落ているとは思われませんか。

　１か月以上のご無沙汰をセックスレスとおおざっぱに定義していますが、勃起障害、性交痛、性欲障害など医師による治療を必要とするような場合を除いて、多くはコミュニケーションの不足が原因しているのではないかと僕自身は考えています。

　「別に触れあう必要もない」では手の施しようもありませんが、セックスを望みながらその一歩を踏み出せないでいるのであれば、初心に戻って、１２段階の１から順を追って触れ合いを深めていくことがセックスレス解消の近道になるのではないでしょうか。

　その結果として性器結合に至ればそれもよし、昔の自分を思い返しながら存分に楽しまれたらいい。「所詮他人

とのかかわり。気持ちよかったら儲けもの」のセックス哲学をお忘れにならないことです。9段階で止まったまま次に進めないもどかしさも、初々しいと思えばそれもまたよしです。常にお互いを傷つけない配慮を忘れずに、それでも思っていることを率直に言い合える関係。そんな関係を築くことこそいいセックスを実現させるのです。

◇心を潤す性の営みこそが明日への活力に

　性とは「心を生きる」と書きます。人はその形象のように支え合って立っています。すなわち、僕たちにとってセックスとは、人と人とのかかわりを保ちながら心豊かに生きることを意味しています。コンピューターに支配されとかく関係が希薄になりがちな社会。現実とバーチャルとの見極めが難しくなっている世界。疑心暗鬼な生き方を余儀なくされているからこそ、心を許しあえる親密な関係の営みが乾ききった僕たちの心を潤し、明日を生きる活力を与えるのではありませんか。セックスが究極のコミュニケーションと言われる理由（わけ）を僕はこんなところに見いだしています。

毎日新聞 - 2008年4月24日

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