牡蠣に「牡(オス)」の字が充てられるのは、かつてすべての牡蠣は「オス」であると
考えられていたことの名残であるが、実際には交代的雌雄同体である。
また「蠣」、〝虫片〟のこの字が充てられる理由は、
かつて、貝類は虫と考えられていた名残でもあり、
(他の貝をみても「蛤(ハマグリ)」「蜆(シジミ)」「浅蜊(アサリ)」「栄螺(サザエ)」
「蛽貝(バイガイ)」「蜷(ニナ)」など多くの貝類に虫片が付く。)
表記漢字からも察することができるように古くから食されてきた
日本人に馴染みの深い食材である。

牡蠣に関する話題は豊富であるが、
今日は「料理に〝加熱用〟と、〝生食用〟どちらを選ぶのか?」の話しをしたい。
牡蠣に加熱用と生食用の2種類が販売されていることは御存じかと思う。
よく、生食用は鮮度が良く、加熱用は生食用の鮮度落ちしたものであり
生食用に劣ると考える方がみえるがそれは全くの誤解である。
(もちろん、生食用で販売していたものが、時間が立ったので
見切り品として加熱用の記載をして値引きをする場合はあろうが、
牡蠣が劣化したケースを除き、鮮度の良い状態であることを前提とする。)
牡蠣は、生で食べることが美味い貝として知られるとともに、
非加熱で食することで、〝あたる〟場合があることもよく知られている
つまり、「食中毒リスク」の高い食材である。
牡蠣の場合、食中毒の原因となるものは
貝毒、細菌(腸炎ビブリオ、大腸菌など)、ウィルス(ノロウィルスなど)があげられる。
これらは、生育する海水の水質によって、食餌を媒介し貝の体内に取り込まれ、
蓄積濃縮されたものを一定量、非加熱で人間が食すことで、食中毒を引き起こす。
しかし、これら貝毒や細菌は紫外線照射や、殺菌海水、濾過海水内で一定期間
飼育し、十分に循環させてやることで大部分が体外に排出され安全に食せる状態になる。
この処理を施した牡蠣が〝生食用〟
処理されていないものが〝加熱用〟として販売されているわけであり、
どちらも出荷される段階まで生きていた貝であり、鮮度はどちらも良いわけである。
ならば、安全に食べられる生食用のほうが良いに決まっている…
〝わけではない。〟
実は、「生食用」は安全に食べられるように紫外線照射などの
処理が行われる数日間絶食状態に置かれ、この間、身が痩せる。
つまり、生食する場合に「生食用」を選ぶことは
食中毒の観点から必要な選択であるが、
十分に熱を加える料理には食中毒の心配はないので、
わざわざ身の痩せた「生食用」を選ぶ理由はなく、
殻付きで身入りの良いものの剥き立て「加熱用」を
選んでやるのが最も美味であるといえよう。

さて、この後の記事で、牡蠣を時雨煮にしてみた。(次回解説)
この場合は無論加熱用の牡蠣を使用するのがよいわけである。
年末年始は、食中毒の起こりやすい時節でもある。
食材の性質を知ることで、食中毒リスクを低減できるなら、
これもまた料理を美味くさせる技術であることに間違いないと確信している。