「やれやれ……」
「何を言われる事やら……」
 呟いては溜め息をつき、溜め息をついては立ち止まる。それを繰り返しながら歩く君たちの足取りは相変わらず重い。
 君たちが向かったのはトブと呼ばれたイスラエルの境界の外の地で、アンモン人の地だった。しかし、ここ一帯にはアンモン人の姿はなかった。
 君たちはトブに入り、さらに先へと進んだ。
 日が暮れかかってきた。
「ここだ……」
 小高い丘から見下ろしながら、君の一人が大きな溜め息をついた。少し開けた平地に、幾つもの天幕が張られていた。天幕は不格好な形のものが多く、色とりどりの布を継ぎ足したもので出来ていた。隙間から灯りが漏れている。君たちは丘を下るのを躊躇していた。
「……やはり帰ろうか?」
 別の君が言う。
「……そうだな。ミツパに陣を敷けたのは神のご配慮だ。きっと神は力をお貸しくださるだろう」
 また別の君が言う。
「……では誰が陣頭指揮を執るのだ?」
 さらに別の君が言う。
 沈黙が重く君たちにのしかかる。

 

「おーい、旦那方!」
 不意にすぐ脇の藪から声がした。君たちはぎょっとして藪の方を見た。
 藪からばらばらと十人程の男たちが現われた。どの男も屈強で凶悪な面構えをしている。手には短刀やこん棒を持っていた。山賊のようだった。
「旦那方……」声をかけてきた男がにやにやしながら、立ちすくんでいる君たちの周りをぐるぐると歩き回る。「どうしたんだい? 迷子かい? なら、あそこの天幕がオレたちの住まいだ。一晩泊めてやるよ。有り金全部でな!」
 男は言うと周囲の仲間たちを見た。周りはげらげらと馬鹿にしたように笑っている。
「……いや、迷子ではない」君の一人が言う。しかし、その声は震えていた。「人に会いに来たのだ……」
「人だぁ?」
「そうだ。エフタだ……」
「なんだとぉ!」
 にやけていた男の表情が険しいものに変わった。周囲も殺気を帯び、手にした凶器を握りしめ直した。
「お前ら、頭(かしら)を呼び捨てにするとは、どういうつもりだ!」
「ぶっ殺しちまえ!」
「アンモンのヤツらにくれてやろうぜ!」
 口々に恐ろしい事を言う。君たちは腰が抜けてその場に座り込んでしまった。しかし、すぐに数人の男たちに腕を取られ立ち上がらされた。
「ふざけた奴らだ!」にやけていた男が、君の一人の横面を張った。「頭の前に連れて行って、成敗してもらおうぜ!」
 君たちは男たちに引きずられるようにして連れて行かれた。

 

 

(裁き人の書 11章3節をご参照ください)