ギデオンはヘレスに上る峠(へレスの坂とも言われる)を通って戦いからの帰途に就いた。
 スコトの都市の前に来た。ギデオンはこの都市の長たちの態度を思い出した。無性に腹が立った。その時、都市の門から若者が出てきた。
「あの者を捕えて、ここに連れてこい」
 ギデオンが兵の一人に言った。兵はすぐに動き、若者を後ろ手に締め上げて連れてきた。
「スコトの若僧だな?」ギデオンは凄んで見せた。数々の戦いで鍛えられたのか、その凄味は増していた。「答えろ……」
 静かな口調がかえって若者を恐れさせた。見てわかるほどに震えている。
「お前をどうこうしようと言うのではない。聞きたいことがあるだけだ」
「な、何を知りたいので……」
「スコトはオレの要請を拒んだ。思い出しても腹の立つ態度でな! 許すわけにはいかん! そこで、この糞都市のお偉い奴らの名前を教えるんだ!」
「それを知って、どうされるんです……」
「オレが言った通りにしてやるんだ! 思い知らせてやるためにな!」
 ギデオンの剣幕に怖気づいた若者は、都市の君と長たちの名前を七十七人、震える手で布きれに書き出した。

 

 ギデオンと兵たちはスコトの都市に入った。都市の中は騒然となった。君や長たちが現われた。その者たちを睨み付け、ギデオンは言った。
「聞け! お前たちはオレを愚弄し、侮辱し、何と言ったか覚えているか?」
 ギデオンは一人一人を睨んだ。睨まれた者たちは何も言わず、ただ下を向いただけだった。
「忘れたのか? 『ゼバハとツァルムナが既に手中にあるとでも言うので、お前の軍隊にパンを与えなければならないのか』だ!」
 ギデオンは兵に合図した。兵が薄汚れた二人の人物をギデオンと長たちの真ん中に牽き出した。
「よく見るがいい! こいつらが、お前たちの言ったゼバハとツァルムナだ!」
「おお…… ギデオン様! どうかお許しを!」君はそう言うとその場に平伏した。「敵の大軍をこの人数で討ち取るとは夢にも思っておりませなんだ……」
「愚か者どもが! オレは神と共に戦っていたのだ!」
 ギデオンは言い、手を伸ばした。兵の一人が近づき、布きれを渡した。スコトの若者が名前を書いたものだった。
「これから名前を読み上げる。呼ばれた者たちは前に出ろ!」
 ギデオンは次々と読み上げ、七十七人が前に出た。
「お前たち……」ギデオンは立たされた者たちの間を歩き回りながら言った。「ここを去る際にオレが何と言ったか覚えているか?」
 誰も答えられなかった。
「覚えていないのか! オレも安く見られたものだな…… 『オレは必ず荒野のいばらとおどろをもって貴様らの身を打ち叩いてやろう!』って言っただろう?」ギデオンは兵に振り返った。「いばらとおどろを採って来るんだ!」
 兵たち数人が走って出て行った。いばらもおどろも棘のある茎を持つ植物だ。それで打ち叩くとギデオンは言った。立たされている君と長たちは動揺した。
 やがて兵たちが手に手にそれらを持って戻ってきた。
「お前ら、服を脱げ!」ギデオンは君と長たちに命じた。下履き一枚になった彼らを地に座らせた。「お前たちを懲らすのはオレではない。神なのだ!」
 ギデオンは兵に合図した。兵たちは君と長たちの背をいばらとおどろで打った。悲鳴を上げる彼らを見て、ギデオンは満足そうにうなずいていた。

 

 ギデオンたちはスコトの都市を出た。そしてペヌエルへと向かった。この都市もギデオンたちの懇願を拒んだ。ギデオンは怒りに燃えていた。
 ペヌエルのヤツらめ、神に相対するヤツらの末路を教え込んでやる!
 都市に入ると、ギデオンは兵たちに命じ、都市の人々を殺して行った。
「愚か者どもが!」ギデオンはこの都市の君に向かって剣を振り上げた。「神に対して自らの命で償いやがれ!」
 その後、都市の見張りの塔に火をかけた。塔に逃げ込んだ者たちは焼かれた。やがて塔は崩れ落ちた。ギデオンは呵呵と大笑した。
「『オレはこの塔を打ち崩してやる!』とのオレの預言が成就したのだ!」

 

 

(裁き人の書 8章13節から21節までをご参照ください)