夕霧は拉致されてから二日が経ち、ようやく落ち着いてきた。最初は殺されるかもしれないと言う恐怖と、都には戻れないという絶望感のために泣き続けた。二日が経って生かされるということが解ってきた。
しかしそれは、自分にとっては絶望的な状況ではあった。鬼共に犯され、汚される。いや、少なくとも都の人はそう思っているだろう。たとえ都に戻れたとしても、鬼に汚された身を置く場所などあるわけがない。
ということは、自分はこれからどうなるのだろう、どうやって生きて行けばいいのだろう。このような山の中では逃げる意味もなく、ここで何かを見つけるしかないのだろうか。そこまではまだ決めかねていた。
夜になった。茨木童子は夕霧の部屋の暖簾を潜っていた。夕霧は静かに入ってきた童子に驚いて少し身構えたが、昨晩よりも落ち着いて童子を見ることが出来た。
「また、来たのか」
「また来た」
「今宵は何をしにきたのじゃ。ほほほほ」
「…おまえを、抱きに来た」
「ほー、言える様になったではないか。ほほほほ」
「馬鹿にするな」
「馬鹿にすると鬼になるか。抱きに来たのではなくて犯しに来たのであろう。」
童子にとってはこの会話が助けとなった。不安や戸惑いよりも征服欲が勝(まさ)ってきた。
「なにをす…うっ」
童子はとっさに夕霧の唇を奪った。
(なんと、なんと柔らかいものだ…)
夕霧の腕は童子を放そうと突っ張ろうとした、しかし童子はそれより早く夕霧を抱きしめた。それまで大きく見えていた夕霧の体は予想より遥かに華奢(きゃしゃ)だった。
(女とはこのようにか細いものだったのか)
「痛い」
童子が抱きしめたまま床に倒れたときに夕霧は小さく叫んだ。
(「痛い」…)
童子はその言葉に怯(ひる)んだ。しかし、ここまで来て止めるわけにはいかない。夕霧を寝かせて胸元を広げた。
(…)
夕霧の胸を見て、本能的に顔を埋めた。
「あっ…」
(なんという、柔らかく美しいものだ)
真っ白になった頭に時折言葉が過ぎった。
童子は帯を解こうとしたが解けない。
夕霧は、すでに自分の運命に腹を括っていた。童子が必死で帯を解こうとしている姿を見て余裕すらあった。
(抵抗しても何時かはこうなる)
夕霧は自分から帯を解き始めた。それを見た童子は信じられなかった。
(ゆるしてくれるのか)
童子は嬉しかった。しかし夕霧の心はそうでもない。
仰向けになった夕霧に童子は覆いかぶさった。もちろん前技などの余裕はない。なかなかうまくはいかない状況で夕霧は少し腰を浮かせてやった。
「痛っ」
その言葉を聞くたびに我に帰る。しかし体は止まらない。
互いに無言のまま事は終わった。夕霧はもはや泣きはしなかった。童子は仰向けになりながら、初めての女というものの余韻に浸っていた。
夕霧は童子に抱き寄せられるがままに、なにも喋らなかった。