妖怪 「酒呑童子」(その9)-都の女2ー |         きんぱこ(^^)v  

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      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

 夕霧は拉致されてから二日が経ち、ようやく落ち着いてきた。最初は殺されるかもしれないと言う恐怖と、都には戻れないという絶望感のために泣き続けた。二日が経って生かされるということが解ってきた。


 しかしそれは、自分にとっては絶望的な状況ではあった。鬼共に犯され、汚される。いや、少なくとも都の人はそう思っているだろう。たとえ都に戻れたとしても、鬼に汚された身を置く場所などあるわけがない。


 ということは、自分はこれからどうなるのだろう、どうやって生きて行けばいいのだろう。このような山の中では逃げる意味もなく、ここで何かを見つけるしかないのだろうか。そこまではまだ決めかねていた。


 夜になった。茨木童子夕霧の部屋の暖簾を潜っていた。夕霧は静かに入ってきた童子に驚いて少し身構えたが、昨晩よりも落ち着いて童子を見ることが出来た。


「また、来たのか」

「また来た」

「今宵は何をしにきたのじゃ。ほほほほ」

「…おまえを、抱きに来た」

「ほー、言える様になったではないか。ほほほほ」

「馬鹿にするな」

「馬鹿にすると鬼になるか。抱きに来たのではなくて犯しに来たのであろう。」


 童子にとってはこの会話が助けとなった。不安や戸惑いよりも征服欲が勝(まさ)ってきた。


「なにをす…うっ」


 童子はとっさに夕霧の唇を奪った。

(なんと、なんと柔らかいものだ…)


 夕霧の腕は童子を放そうと突っ張ろうとした、しかし童子はそれより早く夕霧を抱きしめた。それまで大きく見えていた夕霧の体は予想より遥かに華奢(きゃしゃ)だった。

(女とはこのようにか細いものだったのか)


「痛い」

 童子が抱きしめたまま床に倒れたときに夕霧は小さく叫んだ。

(「痛い」…)

 童子はその言葉に怯(ひる)んだ。しかし、ここまで来て止めるわけにはいかない。夕霧を寝かせて胸元を広げた。


(…)


 夕霧の胸を見て、本能的に顔を埋めた。


「あっ…」


(なんという、柔らかく美しいものだ)

 真っ白になった頭に時折言葉が過ぎった。


 童子は帯を解こうとしたが解けない。


 夕霧は、すでに自分の運命に腹を括っていた。童子が必死で帯を解こうとしている姿を見て余裕すらあった。


(抵抗しても何時かはこうなる)


 夕霧は自分から帯を解き始めた。それを見た童子は信じられなかった。


(ゆるしてくれるのか)


 童子は嬉しかった。しかし夕霧の心はそうでもない。


 仰向けになった夕霧に童子は覆いかぶさった。もちろん前技などの余裕はない。なかなかうまくはいかない状況で夕霧は少し腰を浮かせてやった。

「痛っ」

 その言葉を聞くたびに我に帰る。しかし体は止まらない。


 互いに無言のまま事は終わった。夕霧はもはや泣きはしなかった。童子は仰向けになりながら、初めての女というものの余韻に浸っていた。


 夕霧童子に抱き寄せられるがままに、なにも喋らなかった。


【10へ続く】


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