波 の谷間で眠りたい --12-- |         きんぱこ(^^)v  

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  きんぱこ教室、事件簿、小説、評論そして備忘録
      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

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いつまでも、同じ幸せは続かないの・・・。

いつまでも、大切な物はあり続けないの・・・。


いつまでも・・ずっと・・・


いつまでも、同じ恋は続かないの・・・。


いつまでも、大切な人は傍に居てくれないの・・・。


空に流れる綿雲を追いかける・・・追いかけてしまう。


寂しさと孤独が怖くて。


けれど、心の中には永遠の置場があるよ。


心の中のシークレットポイント。




zetto



宿場のホンダゼットがつぶれた。


「オキさん、居るー」


宿場がドアの外から呼んでいた。


「おー・・・入って来いや」


私は岡田と五目並べをしていた。


「岡田さんも来てたんか」

パチッ

「おー、シュクひさしぶりやのー」

「って、この前の日曜に会ってるじゃないですか」

パチッ

「どないしたんやー」

「ゼットが死んだんやー」

パチッ

「おー、とうとう逝ってしもたかあ・・アレ!ちょっとそこ、タンマタンマー・・・あーミッキミッキ」

「なあははんやねん、そのミッキミッキって」

「今、シュクの言葉に動揺してもたからやりなおしな」

「あはははあかーんっって、もう指が離れたさかい」

「んー、ほなもう一回な」

「ええで・・」

パチッ

「シュクほんで、最後はどないなってんや?」

「エンジンな・・落ちた」

パチッ

「はぁー?」
「はぁー?」

「今朝車乗ろーと思たら、エンジンがかからんかったんや。ウンともスンとも言わんから、バッテリーかな思てボンネット開けたら、なんかエンジンが下の方にあるなー思て、よー見たらエンジン落ちてたって」

・・

「えー」



「そんなこと、あるんけぇ」

「ホンマなんやって、嘘や思たら外でて見てきてみーな、ボンネット開けてあるから」

我々は部屋を出て隣の駐車場に向かった。

「まーじ・・・」

「ホンマー」

「エンジンって…落ちんの?」

「ほんまに落ちたんや」


エンジンは、落ちるのだ!。



82年から83年にかけては、なんだか芸能人の自殺が印象的だった。


変わったアイドル 戸川純が 人気だったがテレビに使われすぎて疲れて自殺するかとおもったら妹の戸川京子が自殺した。


年が明けて 沖雅也が若くして自殺した。


けど自殺は私の心にはあまり残らなかった。


私は予想通り就職が決まらずに年を越して、やけくそになってリクルートに記載の企業を片っ端から電話することにした。


給料なんかどうでも良い。とはいっても、週休二日だけは譲らなかった。


一日に40件も電話したのは初めてだった。


結局、小さなコンピューター会社に入れたがその親会社は旧財閥系の大会社だったので休みも多くて満足だった。


私の車には


Men At Work - Overkill


が流れていて、隣にはジーパンをはいて胡坐をかいて、やたら写真を取り捲る、チィが乗っていた。


車は御前崎に向かっていた。



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どうという理由もなく御前崎に行ってみたいという私の要望を聞いてくれただけだ。


こんなに人間的に面白い(興味深い)女性は生まれて初めてだった。


彼女は人との付き合いをする場合の距離を大切にしているみたいだった。


「そんで、オキりんどこの会社に入れたん?」


「兵庫県のでっかい空母みたいな会社のなかの小さい駆逐艦みたいな会社やな」


「・・・・ほー、よーわかるわー」


「面接の時、尼崎降りて歩いたら迷路みたいな道で、くねくね歩いてたら元の駅の横くらいに戻ってきたんや」


「はっはっはオキりんらしいわ」


「やっぱり海がすきなもんが地上歩いたらろくなことないな」


「はっはっはっは」


「せやけど、笑うてられへんかってなあ、面接の時間にまにあわへんかったんや」


「あかんやんかあ、ただでさえ難しい就職やのにー」


「ほんでな、しゃーないから電話したんや『すいません、道に迷うて15分遅れそうです』って」



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「怒られたんちゃうん?」


「いや、もうあかん思てたら特に怒ってる感じなかったし、謝りにいったんや」


「あやまりにいったん?面接とちがって?」


「おう、面接はもうあきらめてたから」


「そしたらどうやったん?」


「行ったらな、皆面接せんと待っとおんねん」


「えー、あんたのためにー?」


「そうなんや、なんか恐縮してしもて皆に『すんません』『すんません』『すんません』『すんません』『すんません』・・・・ってあやまったんや」


「一人一人にー、はっはっはっ」


「ほな、おれも面接してくれてな」


「ええ会社やんかー」


「そうなんや、蓋を開けたら採用されとった。はははは・・・・」


「よかったやんかー、何十件うけて1件だけ通って、しかも遅刻やのに」


「そうなんや、あとで『なんでですか』って聞いたら、『ちゃんと遅れると連絡して、着いてから皆に謝ったでしょ、いい応対でしたよ』って。遅刻したから通ったんや、ははは。」


「がんばらなあかんなー」


「そうやって」


車からは酒と泪と男と女/河島英吾 が流れ出した。


「なーんでかわしまえいごなん?」


「・・・・・チィ のん兵衛やからー」


「いややー、換えてーやー」


「おっと夕日やで」


「おーーーーううう、きれいー」


「・・・」


太平洋でも夕日が見える海があった。



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「・・・やっぱりええわ、このままで」



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【沖田】私。
【岡田】ドラムが好きな沖田の親友
【清水谷】ベース好きのサーファー、無口なので
 あまり出てこない。プロを目指して東京に行く
【福山】ギターを弾く、女好き。
【かな子】岡田の彼女。日焼けで真っ黒。サーフィンもする。
【ちせみ】私の彼女
【宿場】13年落ちのホンダゼットを運転。後輩
【藤本】宿場の親友。サーフィンのプロを目指す。
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