小説「絵慕の夕風」--その20 バイト-- |         きんぱこ(^^)v  

        きんぱこ(^^)v  

  きんぱこ教室、事件簿、小説、評論そして備忘録
      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

ebo3

-----------------------------------------------------------
≪沖田≫R大3回生 SF WSF

≪杉山≫R大3回生 軽音 絵慕のウエイター

≪今田≫R大3回生 沖田と高校からの友人

≪三本木≫R大3回生

≪徳永≫K教育大3回生 沖田と高校からの友人

≪浅田≫R大4回生 WSF 軽音 絵慕のウエイター

《柿沼康子》K女子大4回生 絵慕のウエイター ヤッチン

《大谷裕子》S女学院1回生 アイ 身長168

《内村 晴子》 S女学院1回生 WSF

《井本 里美》 S女学院1回生

《井上美穂》S女学院2回生 杉山のGF 軽音 ロングストレート 美人

《田中悦子》S女学院1回生 エッチャン 身長166

(SF=サーフィン、WSF=ウィンドサーフィン)

-----------------------------------------------------------



「沖田は翌日、今田と一緒に絵慕のいつものカウンター席に陣取って、バイトの雑誌を眺めていた」


「あんたら、バイトすんのか、へ?」


ママが尋ねてきた。


「うん・・、最近したいことが多すぎて、要するに金が足りんわ」


「家(うち)の手伝ってくれてもいいけど、出来るかな」


「いや、俺は喫茶店は無理やね、なんか変わったバイトしたいねん」


カウンターには三本木が入っていた。


ママは、暇なのか今田と沖田の隣に座って、私が読み漁っているバイトの雑誌を見始めた。


「ははは・・ゲイバーが募集してるで、オキあんた行くかはははは・・」


「おまえ、そーせー」今田が言った。


「ママそういえば俺この間まで長髪にしたてやろ、今年の1月頃やけど、ブラックのコート着てブーツ履いて河原町の歩道でバス待ってたんや。そしたら車が寄って来て「良かったら送ろかー」って声かけられた。」


「はっはっはっは・・そんで、どうしたんえ」


「えっ・・・・お言葉に甘えて送ってもらおかなと思ったんやけど、気付いて逃げられた。」


「はっはっは、相手びっくりしよったやろな」


「女引っ掛けるのを生きがいにしてるような連中や、たぶん屈辱で一生のトラウマになってるやろ。」


カウンターの三本木も暇そうに聞いていたが。


「そういえばおまえ、去年与論行った時に、女装大会で準優勝やったって言うとったやないか」


「あー、けどあれは現地の女の子の服借りて化粧してもろて、髪にハイビスカスさしたらそうなったんやけど、優勝したやつなんか完璧に女やったで。」


「ほっほっほっほ」


「いや、そんなんと違って、もっと変わったやつ捜してぇなママ」


「・・・ほなこれどーえ、ほっほっほ寺田屋やて、坂本竜馬か?」


坂本竜馬がみょうに引っかかった。


寺田屋と坂本竜馬は京都ではとても関係が深い。


歴史好きではなくとも有名な話だ。


寺田屋は幕末の薩摩藩の定宿で、竜馬も愛用した宿だ。



t

(本当は右の空き地のようなところにあったが鳥羽伏見の戦いで消失したらしい)
(詳しいことは別途説明しよう)


世の人はわれを
何とも云はばいへ
わがなすことは
我のみぞ知る


竜馬が十代のころ、周囲からアホ呼ばわりされていたときに謡った歌が寺田屋の前にある。

私もこんなことを思ったことが何度もある。(笑)

竜馬だって思っていたんだと思えば心強い。


話を戻す。


「今田、寺田屋っておもろうないかな。」


「おお、ええのお。・・・・何してるとこや?」


ママが読んだ。


「アクセサリー販売、時給700円より、実績により1500円まで可。新京極、寺町、嵯峨野、映画村やて。」


「おおー、ええやんけ。おもろそうやんけ。・・・・おまえとりあえず行ってきいひんか?」


今田は初物には慎重だ。


こういうときはいつも沖田を使う。


「また俺か。一緒に行ったらええやんか」


今田はいつものパターンでにこにこ微笑みだして、

「まぁ・・まぁええやんか、おまえ行きたい言うたら必ず一緒に行ったるから。」


これもいつものパターンだ。


もう慣れてしまった。


突然、三本木が入ってきた。


「沖田がええ感じやったら俺も行きたい」


「いやっはっは、うちの所はどうすんね?」


「もちろんやりますよ。」


「よっしゃ、善は急げやから、今から行って来る」


「履歴書どうすんねん!」


「あ、そうか・・・面倒くさいのー」


履歴書を買ってきて、絵慕で記入した。


「ほな、また」


入れ違いにウッチャンが3人連れで店に入ってきた。


「あっ、沖田さんもう帰んの?、ヨットレース聞きたぁーい」


初めて行ったヨットレースのくせに、なんだか優越感を味わいながら、


「ごめん、今日は忙しいねん。忘れる前には話しするから、ほなな」


「・・・・絶対やで」


「絶対ゼッタイ」


そう言って店を出た。


新京極の松竹座(今は無くなった)の前の店まで来た。


立派な店かと思っていたので最初は気づかなかったが、良く見ると映画館の前に、高さ2m、横幅1.5mほどで屋根がついている屋台のようなものが4つ並んでいた。


小さな屋根がついていて、屋根からはキーホルダーなどがぶら下がっている。


真ん中はテーブルのようになっていて、ネックレスが並べてあった。


(これのことかな・・・)


そっと店の後ろに回り込んだら、エプロンをつけた男が3人座っていた。


「あのー、寺田屋ってここですか?」


丸顔のやさしい顔をしたエプロン姿の人がこちらを向いた。


「はい、そうですよ、アルバイトですか?」


「はいそうです、まだ募集されていますか?」


「まだ募集していますよ」


もう一人の人も、にこにこしながらこちらを見ていた。


その人は、どこか歌手の「かまやつひろし」に似ていた。


なんだか面白そうだし、いい人みたいなので


「あの・・・、だめだったらすぐクビでいいですから・・やってみたいんですけど、なんか面白そうですね、一発で興味深々です。ははは」


「はっはっは・・ワタルやってもらおうよ」


かまやつひろしが答えた。


あとでわかったが、丸顔のひとがワタルでかまやつひろしがリョータという人で、ワタルさんは一つ年上でリョータさんは私と同じ年だった。


「やった!、よろしくです。」


「んー、じゃそしよっか。いつから来る?」


ワタルさんが言ってくれた。


「じゃぁ、明日。」


「じゃあ、明日の10時にここに来て。映画村に行くから」


「映画村?」


「そう、映画村が本部。社長には推薦しておくから。」


私はそのまま店に座って、リョータさんが売るのを見ていた。


リョータさんとは初対面なのに、なぜか気があって10年前からの知人のような感じだった。




------------------------------------

小説「絵慕の夕風」--その21--

小説「絵慕の夕風」--その1--

------------------------------------