小説「絵慕の夕風」--その3-- |         きんぱこ(^^)v  

        きんぱこ(^^)v  

  きんぱこ教室、事件簿、小説、評論そして備忘録
      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ


ebo3


三本木は藤森と墨染駅のほぼ中間にある藤森神社の隣にある古ぼけた文化住宅に済んでいた。

風呂は無く、木造の二階で、トイレも共同だったが、大家さんが綺麗好きで廊下の床はピカピカと黒光りしていた。

部屋は畳の六畳と三畳二つ間で家賃は12000円だった。

テレビを見るわけでもないが、小さい音でつけっぱなしにして、ジョニ赤を水割りにして、チビチビと飲んでいた。

今日は同郷の松田が来ていた。

松田はD大学の3回生で、三本木とは高校からの知り合いだった。

松田は先ほどから、中書島というところで下宿しているK大学の連れのところに行ってきた話をしていた。


中書島は大阪と京都の県境にあり、京阪電鉄の宇治線の始発駅でもあった。


淀川と宇治川の合流点でもあり、また、戦国時代では有名な「淀君」が住んでいた「淀城」の近くでもあった。

「それで、中書島まで行って、そいつの下宿に止まったんや」

「ほーほー」

「ホンマの話か分からんかったし、酒も飲まんとこかって言い合わせて、夜中に三人で畳に寝転んでたんや、そしたらホンマに出よったんや」

「え、うそやろ」

「天井の蛍光灯の前にくっきりと見えたんやで、髪が乱れた感じの男の顔なんや、しかも三人とも見たんやから間違いないやろ」

三本木は何時も沈着冷静を求めることに価値を感じていた。

「ほう、そら三人も見たら間違いなないわのう・・・それでどないしたんや」

もともとこう言う話は苦手だったが、努めて冷静を心掛けた。


しかし、もう限界で、コトリという音でもすれば飛び上がりそうな心境だった。


「どないしたもこないしたも、みーんな固まってもて動かれへんかった、ははは」


「ほんで、その幽霊はどうなったんや」


「長ごー感じたけど、たぶん見えたんは一瞬やったんやろーな、その後天井見てたら、板の紋まで人の顔に見えてきたから、キモーなって(気持ち悪くなって)逃げて来たんや」


「あかん、あかん、オレもそこにおったら耐えられへんようになって逃げるわ、そいつ怖わぁ無いんかなぁ」


「もう、しょっちゅう出てるから慣れたらしいで、憑かれてんのんとちゃうか、ははは」

松田は、三本木の恐怖の極限状態を楽しんでいたが、いつもこれ以上無理には突っ込まなかった。

「京都っちゅうのは幽霊だらけやな」

「そうやな、この変は落ち武者の幽霊が出るらしいな、いちいち怖がってたら身が持たんくらい出るらしいな」

「この辺りゆうたら、あの秀吉と明智光秀の山崎の合戦があったとこやろ、明智光秀の亡霊とちゃうか」


「おう、そうやな、天王山って言うてるけど、この辺も戦場やったらしいな。」


「沖田がいる第3谷口荘もでるらしいで、窓の外を影がスッっと通るらしいわ」


「京都なんて、何処にいてもそうなんやろうな」


「もうこんな時間か、ぼちぼち帰るわ」


「泊まって行ったらええやないか」


「明日学校に行くのが面倒くさぁなるやろ」


松田はD大学なので大学の場所は京都のド真ん中になる。

「あした三本木は絵慕でバイトやろ、俺授業終わったら絵慕行くわ、沖田来とるかなぁ」

「あいつはバイトなかったら大概おるよ」

「おもろい店があんねや、三本木バイトおわったら沖田と行かへんか」

松田は自ら企画して動くのが好きだった。

D大学の連中の特徴かもしれなかった。

「おお、沖田来たら声かけとくわ」

松田はそう伝えて、三本木のところには泊まらずに、百万遍(京都大学の近く)の近くにあるアパートに帰っていった。

松田が帰っていった後、布団を引いて寝転がった。

さして明るくもない蛍光灯を見ると、先程の話が浮かんできた。

(落武者かぁ)

背筋に寒気が橋ったので、うつ伏せになって寝た。


-------------------------------------

小説「絵慕の夕風」--その4--

小説「絵慕の夕風」--その1--

-------------------------------------