小説「帰れぬ心の故郷」--14章-- |         きんぱこ(^^)v  

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      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

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帰れぬ心の故郷  --格闘--  (1章へ)


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その民家の裏庭は広くは無かったが、身長くらいの高さの金網で仕切ってあった。

私は金網を乗り越える時に、手にしていた木刀が邪魔になって捨ててしまった。

民家は留守の様だった。

私が金網を乗り越えた時に、追手が二人追い付いて、一人が金網で落とした木刀を拾い、もう一人がこちらをにらみつけた。

木刀を持った男が回りこんで来る前に、私はもう一度民家の金網を越えなければならなかった。

追って来た二人の内、もう一人は金網をよじ登ろうとしたが、気障な男らしく服を気にして諦め、顔で私を威嚇していた。

私は急いで金網をよじ登った。

ここで捕まると袋のネズミとなる。

遠くで、パトカーのサイレンが鳴り出した。

こっちに来るパトカーであることを祈った。

金網を越えて、細い路地に降りた。

辺りは薄暗い。

木刀を持った男が左から来る筈なので、右に向かって走った。

しかし路地角からまた二人の男が姿を現した。

(クソッ、二人か、一体何人いるんや・・)

二人では歯が立たない。

止むなく引き返して走った。

しかし、木刀の男が路地に入って来た。

私は腹を決めて、木刀の男と対待した。

木刀の持ち方を見て、剣道の経験は無さそうだった。

もし経験があれば私に勝ち目はない。

相手は私が立ち向かって来ることがわかり、左足を前に踏み込んで、木刀を上段から振り回そうとした。

私はとっさに、頭を下げて、相手の懐に飛込んだ。

剣道経験があればわかると思う。

上段で振り被られる時、当然相手が大きく見えるので、思わず体を引いてしまうかその場ですくんでしまう。

そうすると常に相手の間合いから外れない。

横に逃げる。

理屈では可能だが熟練しなければ出来ない。

こんなときは、思いきり後ろに逃げるか前に突っ込むしかない。

威圧されて体が動かない時は、思いきり声を出す以外に、その呪縛からは逃れられないだろう。

私は後ろに逃れる事は出来ないので、前に突っ込んだ。

元より無傷で切り抜けられるとは思っていなかった。

サイレンの音が近付いて来る。

私は突っ込んで行ったので、男は木刀を打ち込まずに、木刀の尻を私の背中に打ち付けた。

私は、男の片足を抱えて体事、金網に打ち当てた。

運良く、男の顔が金網の先端に当たり、私を掴む手を外した。

私は男をふりほどいて、路地の外に出ようとした。

息は既に大きく切れていた。

しかし、路地の出口に、ナイフを手にした男が仁王立ちしていた。

私は、先程の男から木刀を取り返した。

しかし、そのときには路地から来た二人の男に挟まれた。

ナイフを持った男の後ろに、部屋で刑事を襲った男もいた。

万事窮した。

しかし僅かな望みに賭けた。

相手も逃げる身だ。
焦っているはず。

サイレンの音が大きくなってきた。

「おぇ、さっさと取り上げんかい!」

後ろからボスらしい男の声がして、私を取り巻く男の輪が段々と小さくなってきた。

(これで人生終りか・・)

そう思うと腹が立ってきた。

私は悔しさで涙目になりながら、渾身の力を込めて木刀を振り回した。

一人の足に当たったが、後ろから組ふせられて、その男には、木刀の尻で殴った。

しかし、私の抵抗はそこまでだった。

「オラァ、はよー出さんかい、どこやぁ」

それでも力の続く限り抵抗をした。

誰かがポケットを探ろうとしたが木刀でその手を押さえた。

しかし、私の両手は自由を奪われ始めた。

太股辺りに熱い衝撃が走り、顔や腹は何度も殴られた。

それでも抵抗しながら、何故か笑っていたような気持ちがした。

「はよせぇ!」

その声を最後に意識が薄れた。
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