小説「帰れぬ心の故郷」--12章-- |         きんぱこ(^^)v  

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帰れぬ心の故郷  --自首--  (1章へ)


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東京のマンションは、取り敢えずそのままにして大阪に戻る事にした。

大阪に戻るのぞみは混んでいた。

指定席を取り、三人掛けの通路側に座った。

昼だったが殆んどの人がサラリーマン風の服装で、寝ている人が多く、社内は静かだった。

自首とはいっても、犯罪を犯した感覚はなかった。

拳銃と現金を拾っただけなのに・・

しかし、立派な犯罪ではあった。

占有離脱物横領。

銃刀法違反。

銃は所持しているだけで懲役一年だ。

しかし、拾った事情を説明すると、執行猶予くらいはつくのではないだろうか・・。

それくらいの犠牲はしかたがないだろう。

今までは、このことが恐くて逃げていたが、もう早く普通の生活に戻りたい。

インスリンも、残り少なくなってきていた。

病院にも行かねばならない。

息子の事を思い浮かべながら暫く眠りに付いた。

眠りから覚めたのは、丁度新大阪に着く手前だった。

大阪はどんより雲っていた。



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新大阪から少し歩いて、阪急の西中島南方(にしなかじまみなみかた)から淡路に向かい、淡路から地下鉄堺筋線に乗った。

堺筋線は淡路から御堂筋の一本東を並行して走り、日本橋、通天閣、動物園前を通ってあいりん地区や飛田新地をかすめて天下茶屋まで延びている。

私は日本橋の次にある恵美須町で降りた。

恵美須町は日本橋の電気街の南の端にあり、駅を上がると直ぐになにわ警察がある。

なにわ警察のエレベーターに乗り、三階のボタンを押した。

三階に着くと、狭くて雑然した事務所があった。



なにわ (なにわ警察)


人々はほぼ一人に一つづつ配られたパソコンに、かぶりついていたり、気だるそうに話している警察官ばかりが目についた。

特種な部署を除いて、パソコンに慣れた警官は、多くはなかった。

職業柄、そういう事が瞬時に解ってしまう。

警察にコピーや複合機が売れた場合は粗利が良いのでよく儲かる。

説明しても解らないので直ぐに業者にまかせてしまうからだ。

辺りを見回していると、やっと一人の刑事が私に気付いて寄ってきた。

「どうされましたかぁ」

私は流石に少し緊張して話した。

「あの、半年ほど前なんですけど」

「はぁ・・」

「この先でやくざのドンバチがあったでしょう」

「はあ・・ありましたねぇ」

「・・あの、犯人はどうなりましたか?」

「・・あれは証拠不十分で不起訴になったんですわぁ・・それで・・あんたはあの件となぁんか関係があるんですかいねぇ」

「はぁ・・実は、あのときの拳銃を拾って」

刑事は急に正気のある目になって言った。

「まあ、どこか座りましょか、えーっと、あそこの四人がけに行きましょ」

そう言って私の腰に手をやり、四人がけのテーブルへと誘った。

二人は向かい合わせで椅子に腰かけた。

「それで、その拳銃は、もってきたんですか」

「いえ、東京に行ってたんで、この近くにある私のマンションに隠してます」

刑事は少し難しい顔をして、

「あの・・本当の話しなんやね、この辺りは変わった人が多いから、冷やかしも多くてね。」

「冷やかしじゃないですよ。ここに、ほら」

と、財布から一つの銃弾を取り出して机に置いた。

刑事はそれをつまみあげて、上司らしい男の方に歩いて行き、何やら説明を始めた。

話は直ぐに終わり、こちらに戻ってきた。

「解りました。そしたら今からお宅のマンションを教えてくれますか、一緒に行きましょう、近所やったねぇ、歩いて行こか、田辺、一緒に来て」

「はい」

田辺という若い警官は、パソコンをそそくさとたたんで付いてきた。

外は夕方だったが、雲っていたので薄暗かった。

我々は警察を後にして日本橋の電気街の西にある私のマンションにむかった。

「このマンションの三階です」

我々はオートロックもない古びたマンションに吸い込まれていった。

マンションの直ぐ向かいの煙草屋の陰から、一人の男が駆け去ったことには誰も気付かなかった。


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