ギャンブル小説「とったらんかい!」--崩壊の序章4-- |         きんぱこ(^^)v  

        きんぱこ(^^)v  

  きんぱこ教室、事件簿、小説、評論そして備忘録
      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

退院して4ヶ月がたった。


周りの景色もようやく秋色に染まりかけてきた。


しかし、私の体は相変わらず思うように動かなかった。


内臓をやられると、回復には時間がかかる。


大阪駅に近い、淀屋橋の客先を終えた。


秋らしい夕暮れの中で、御堂筋を南に向かってトボトボ歩いた。


希望や目標、楽しみがないときは、仕事を終えた直後がつらい。


疲れが体を襲ってくる。


通りは仕事を終えたサラリーマンがビルからあふれ出てきていた。


自分だけが、他の人間と違う透明なカプセルの中にいた。


音は・・・聞こえているが、あるような・・・ないような・・・。


ネクタイを緩めて楽しそうに話しながら歩いてくる人。


アベックで歩く二人。女性の目が楽しそう。


スーツを着て、光物のアクセントを見事に着こなした女性が通り過ぎる。


女性ばかりで楽しそうに歩いていく集団。


車道では、忙しそうに走り行く車。


誰を見ても、何をみても、


みんな、活き活きと生きているように見えた。


(人間なんて、アリだな・・、地球から観れば肌を蝕む害虫だな)


(その害虫の中の、どうしようもない一粒か・・・)


従業員すら守れなかった。


好きな人すら守れなかった。


自分すら守れなかった。


残ってるのは、借金だけ。


「いつも綺麗な取引、ありがとうございますぅ・・」


・・・・・・うまく言うものだ。


褒められてるのか、馬鹿にされているのか・・・。


サラ金の金額はみるみる300万を超えていた。


保障協会とクレジットを合わすと800万。


事業での800万は大したことはない。


個人での800万はおそらく、一番どうしようもない額。


借金というのは、少なければ返せる。


多き過ぎるとチャラになる。


これくらいの金額はとことん追いかけられる。


自分では頑張ったほうだ。


頑張って仕事をした結果、借金が残った。


実業者の器ではないことは解った。


月々の返済が20万を超えていた。


この状態でサラリーマンには戻れなかった。


頭の中は・・・


(どうやって返そうか・・・・)


毎日毎日・・・思考の中心はこのことから始まった。


おそらくここで、人間の心を失った。


週中は仕事をした。


個人で仕事をしているので、


足元を見られ、舐められた。


しかし、働いた金額を妥協することはなかった。


このことだけは、借金が逆に支えになった。


週末が厳しかった。


一挙に返したかった。


日曜になると、昔のプロ野球の南海の本拠地、難波球場跡に向かった。


410円の白い新聞を握り締めて・・・。