--崩壊の序章1--
入院の直接の原因は風邪で肝臓をやられたことだった。
一度、肝臓をやられて入院すると、
しばらくは体力と気力が戻らない。
体は、すぐに疲れて、動作は健康時の半分程度となった。
収入の予定は急に無くなった。
半年ほど前に、車上荒しに合った。
ワンボックスの軽自動車を、ミナミの難波球場の跡地に出来た
駐車場に止めた。
そこから、客のパソコンを仕入れるために、すぐ近くになる
大阪日本橋へ買い出しに行った。
大阪日本橋は東京で言う秋葉原のようなところだ。
表通りには電気屋や量販店が立ち並び、
路地に入ると、「オタク」が興味をもつような店や
中古ショップのほかに、昭和初期から商売をしている
古い店などが立ち並んでいる。
私は、客から頼まれて、中古のパソコンを買いに来た。
中古パソコンは、半年から1年程度のものが買いごろだ。
ノートパソコンを2台買って、車のある駐車場へと戻った。
荷物を運ぶので、車には自分のパソコンと、書類の入った
鞄を置いていた。
車は何事も無かった。
荷物を置いて、鍵を差したが・・・・キーを回すまでもなく
ドアが開いた。
私は、ゆっくりと開いていくドアのそばに呆然と立ち尽くして
一点を見つめていた。
(やられた!・・・・・・・)
助手席にあるはずの、皮の茶色い鞄が無くなっていた。
他に荒された形跡はない。
体が震えるほどに、怒りがこみ上げてきた。
(見つけたら・・・・・ブチ殺したる・・・・・)
あたりを見渡したが、それらしい人物はいない。
すこし離れたところにいた駐車場の管理人に聞いたが
埒があかなかった。
疑いだすと、管理人まで信用できなくなってくる。
この駐車場は、500台ほど止まれる平場の駐車場だった。
しかたなく、
警察に届を出した。
「最近多いから・・鞄置いて車を離れたらあかんで、
犯行時間がなんせ、2,30秒程度やから・・・・・。
こっちも見回りしてるけど中々難しいんや・・・」
パソコンには協力なパスワードをかけていたから、
たとえハードディスクを取り出して見られても
各ソフトやデータにもパスワードがかかっているので
そこまでは見れないだろう・・・。
そこまでするほど大した価値のあるデータは無いはずだ。
しかし、私には開発中のプログラムなどがあった。
それは、なんとかバックアップを取っていたので
なんとかなる。
困ったのは、書類だった。
以前に保障協会でお金を借りた時に買った機材の
領収証が沢山入っていた。
今、に戻る。
やはり、保障協会では
「ご存知の通り、設備投資にかけた金の領収書がないと
受付はでけまへんなぁ・・・・・。」
「そんなこと言わんと貸してくださいな。盗難届も・・ほら・・
ちゃんと出してます。取られたんはホンマなんです。」
「そんなこと言われても、あかんもんはアカンのですわ・・」
私は、あきらめずに、民生へ駆け込んだ。
民生・・・・・共産党。
「・・・・・そうですか・・・・大変でしたなぁ・・・」
「手数料は取っていただいて構いませんので、
なんとか、なりませんでしょうか?」
「そりゃ、もちろんやってみますよ。局長は保障協会では
顔が通ってますから・・・・。これ書いてもらえますか?」
一通の紙が渡された。
「何ですか?これ・・?」
「民生の会員の入会届ですわ。会員でないと・・・ねぇ」
「いいですよ。何とかしてくれるなら入ります。」
しかし、結果は、
「やっぱりだめでした。がんばったんですけどね・・・・」
「そうですか・・・・ありがとうございました。」
結局うまく行かず、会員にもならなかった。
(友人にだけは声をかけたくない・・・・・)
(親は母一人だから、お金などない・・・・)
(親戚あたってみるか・・・・・)
しかし、親戚に金持ちはいないし、突然行って
「金貸してください・・・」では無理なので、
インターネットを使った会員管理のシステムを
開発・販売するので、出資してほしいと
徹夜で書き上げた企画書をもって何軒か訪問した。
しかし、結果はだめだった。
東京で軟禁されたときの社長のような口があったらなぁ。
つくづく自分の能無しにはあきれ返った。
大阪の町を歩いていると、今まで全く気付かなかった
カンバンばかりが目に付きだした。
(これに手をつけると・・・・・・・終わるな・・・・・・)
アトム、プロマス、アエコ、ロイク・・・・・・。
クレジットカードはもはや一杯まで借りていた。
クレジットカードはどれもゴールドカードだった。
もう当てが無い・・・・。
私は、免許証を確認して、アトムと書かれた
無人契約機のあるブースに入っていった。