前日から話して聞かせていた。
明日はママ病院に行くね。
しろみちゃんはパパとおうちで遊んでいてね。
しろみ「おうちじゃない!公園に行く!」
パパ「いいよ、どこの公園に行く?〇〇公園?☓☓公園?それとも…?」
しろみ「△△公園!!(笑)」

〇〇公園と☓☓公園は徒歩数分の距離だが、△△公園はやや遠く、電車で行くか、自転車なら子乗せ用の安全運転で片道30分かかるところ。
去年の秋に娘が△△公園にハマり、毎週や隔週のペースで行ったことがあった。
公園や外遊びそのものに目覚めた時期でもあったので、週末ごとに今日は何公園に行く?と聞かれては、わざと一番遠い「△△公園!」と答えて親を困らせて笑いを取る、というのが、夫と娘の定番のやり取りだった。
この会話を見るのは久しぶりだった。

「パパと遊んでたらパパおみやげ持ってくる?」

パパがたまに職場でもらってくる同僚の出張土産や旅行土産、お客さんからの差し入れなどがあると、娘に持って帰ってきてくれる。
娘はそれを「おみやげ」と呼び、楽しみにしている。
おみやげ=パパが持ってくるもの、なのかしら。

ママが病院の帰りにおみやげ買ってきてあげるね。
しろみちゃんの喜ぶものがないか探してくるね。
「しろみが喜ぶもの、あると思うよ!」
そうだね、おみやげ買ってくるから、パパと仲良くして遊んで待っててね。



当日の朝、娘は早めのお目覚め。
寝起きから機嫌よく遊んでいた。
服薬も朝食もオムツ交換も着替えもできた。

しかし、いざ出かける時間が迫ってくると、グズグズし始めた。
ささいなことでキレて泣く娘。
私が少し動くだけで、手をちゅないで!!と泣き叫ぶ。

抱っこしてほしいと言うので立って抱っこすると、
「どこにも行かない。ママもおうちにいて。」と言う。
ママ病院に行かないと病気が治らないよ?と諭すと、
それ以上は何も言わず、グッとこらえた様子で、抱っこから降りた。



3人で家を出て歩く。
私と手を繋いだ娘は、楽しそうに歩いたり走ったり。
途中から反対側の手を夫と繋いで3人で並んで歩く。
ねこじゃらしを見つけると手を離し、自分でふたつ摘み取る娘。


交差点に出た。
左は駅、右は公園。
「パパ抱っこで公園行く。」
じゃあママ行くね、すぐ帰って来るからね。

「おわかれしゅる…」

娘の呟きが聞こえて、私は振り返って手を振った。
夫の肩に持たれた娘の、目線をそらしてションボリした顔。

不安で仕方がないが、行かないわけにはいかない。
娘の「ママがいい」「ママ行っちゃダメ」を受け入れ続けた結果、何ヶ月も私の持病を放置し悪化の一途を辿り、娘に精神薬を飲ませないと生活できない事態にまでなってしまったのだから。



婦人科には予約時間の少し前に着いた。
予約時間を15分ほど過ぎたあたりで診察室に呼ばれた。
前回は若い雇われの医師で、受け答えにも若干頼りなさを感じたが、今回は、こちらもそこそこ若そうだけど、堂々とした感じの院長だった。
改めて、ミレーナの説明、懸念事項等を説明された。

PMS/PMDDの改善はあまり期待できないこと。
私が過去に色々とピルを試した時期から5年以上が経ち、新たに出たピルもあるので、PMS/PMDDの改善なら、ものによってはピルの方が効果が期待できること。

それでも、月経痛の大幅軽減にはかなり効果的であろう、ということ。
元々の陣痛並みにひどい生理痛が軽くなるだけでも、一万円(保険診療の場合)を試す価値はある。
合うかどうかわからないピルを試したところで、例えば毎月3000円かかったりするので、3〜4ヶ月で一万円かかるのだ。

「ミレーナやります。」

処置にかかった時間はほんの数分だったと思う。
内診台にて、超音波で確認、消毒、軌道確認、ミレーナ挿入。
挿入は痛かった。
生理痛のような痛み。

「はい、キレイな位置に入りましたよ。」

パンフレットやら同意書やら、今後の説明やらを経て、一万円未満の会計を終えた。
ちょっと痛み止めなしだとキツイな、というぐらいの生理痛のような痛みが止まらず、駅のホームで水を買って、ロキソニンを飲んだ。

夫に連絡すると、まだ公園にいるという。
自宅の最寄駅から、私は小走りで公園に向かった。
夫と娘と別れてから、ちょうど2時間になるところだった。

娘は楽しそうにブランコに乗っていた。
平日の午前中、他に誰もいない公園に、娘の笑い声が響いていた。