『ウォーリーをさがせ』が映画化されるらしい。
蛇足かとは思うが説明すると、細かい人間がもっさり描かれた一枚絵の中から、ウォーリーというメガネ男を捜す絵本だ。
絵本が映画化されちゃうのだ。それも実写で。
そのニュースを知った、誰しもが思うのだ。
「2時間捜しっぱなしは、疲れるんじゃないか」
どんな感じになるんだろう。
あるいはそれは、ウォーリーを捜す人々の、熱き戦いの日々を描いた物語かもしれない。
「アルファチーム、右手より回りこめ! ブラヴォーチームは左翼より展開! 横一列の布陣だぞ。ネズミ一匹すり抜けさせるな!」
「ラジャー!」
「ねえ隊長、聞いてくださいよ」
「なんだヘンドリクセン」
「俺、この作戦が終わったら、ケイトのやつにプロポーズしようと思うんです」
「なんてこった、本気か? やっとその重たいケツを持ち上げる気になりやがったか、この色男。これ以上、ケイトを待たせるわけにはいかん。あのシマシマのメガネ野郎を、2時間以内に見つけ出すぞ!」
「チクショウ! いねえ! どこにもいねえよ!」
「落ち着け、ヘンドリクセン!」
「ロジャー・ロンガー兄弟も殺られたってのに、こっちはアイツの後姿すら拝めてない! チクショウ! やつは透明人間なのか?!」
「落ち着くんだ。冷静になれ。この辺りはヤツの仕掛けた罠でいっぱいだ。間違えてロボットの方のウォーリーでも捕まえてみろ。感動のあまり涙で前が見えなくなっちゃうぞ」
「同じウォーリーなんて、まぎらわしすぎるぜ、WALL・Eめ・・。っあ!? いた!? あのメガネ野郎!」
「まて、ヘンドリクセン! そいつは!」
「うおぉぉー! つーかーまーえーたー!」
「そいつは、コパンくんだー!」
「やられた・・ぜ・・ケイト・・俺は、お前に・・ガクッ」
「ヘンドリクセーン!」
あるいはこうだ。
実写だが、シンプルに2時間静止画像。
微動だにしない役者たち。もちろん瞬きもしない。みるみるうちに、目が赤くなっていく。
しまいには皆泣いている。
見ているこちらも泣けてしまうのだ。よく「全米が泣いた!」などの過剰コピーがあるが、今回に限っては看板に偽りなしかもしれない。
エンドロールのNGシーン集は、瞬きのシーンばっかり。
開幕2分で見つけてしまった観客は、残りの118分をどうしたらいいのか。そんな消化試合はイヤなんだ。
「もう見つけたから帰りたい」
「何勝手なコトいってんのよ! 私まだなのに!」
声をひそめて喧嘩が始まった。
押し問答が続き、男はつい、声を荒げてしまう。
「このグズ! あそこだよ、あそこ! 右上の滑り台の下にいんだろが!」
「てめぇ!」
「このやろ!」
「なにネタバレしてくれてんだ!」
「金かえせ!」
「どうせ俺は彼女いねえよ!」
大乱闘になってしまった。
やはり、見つけたら、黙って席をスッと立つのが粋だろう。
見つけた順に帰ってよし。
自分が最後の1人になったらと思うと、いたたまれない気分になるのだ。
たった一人でエンドロールを観て、誰ともなしに、つい、いい訳をしてしまう。
「視力、おちたせいかな。メガネ新しくしなくっちゃだな、ハハ・・」
トボトボと扉に手をかける。開かない。大声で係員を呼ばわるも、反応が無い。
ダンダン叩いていると、扉の下から1枚の紙が差し入れられる。
そこには赤字で、こうあるのだ。
「さがせ。さもなくば・・」
やがて照明が落ちて、スクリーンに再び灯がともる。
2周目が始まったのだ。
まったくどうなっちゃうんだ、映画版『ウォーリーをさがせ』ってば。
そして間違いなく、こんな内容の日記が、webのあちこちに無数にあるんだと思う。
うっかり映画化のニュースを見かけてしまったのが運のつきだ。抗いがたく書いてしまった。今では反省している。
だいたい僕は、別にウォーリーを捜したくはないのだ。
皆、ヤツに何の用があるんだ?