「素直じゃないなぁ。ま、いいけど。」

頭を整理する間、ついアイスを一舐めしてしまった。しゃべりづらい。

「馴染みの店を作るには、まず店に貸しを作る。忙しいと思われる日に、前日になって予約の連絡を入れる。当然満席と言って断られる。これを2,3回繰り返すと店のほうが覚えてくれて、いつも申し訳ありません、と負い目を感じてくる。そうなったらしめたもの。なんとかしてあげたいという気になって、こちらの希望に沿うよう努力してくれる。」

「それって、あなたがいつもやってる手口?」

「手口なんて人聞きの悪い。セールステクニックと言ってほしいね。」

「横文字使えばいいってもんじゃないよ。で、そのあとは?」

「なんとか店の予約が取れたら、予約時間より5分遅れていく。 最後の押しだね。そしてやおら店に現れ、遅れたことをわびる。店は、いえいえこちらこそ、ということになり会話のきっかけができる。そうなったら、あとはいろいろ話題を振って会話を弾ませて仲良くなっていくという手順さ。」

「ほんと策士ね、あなたって。」

空になったソルベの容器を店の袋に押し込んだ緋乃は、あきれ顔でこちらを見上げている。ため息をついてしばらく足元を眺めていたが、やがてゆっくり私の右手ごと引っ張り、コーンの端をクリームごとかじった。

「寒い中でアイスを食べるなんて、まるで我慢大会。」

「同じ我慢大会でも、こっちにとっては別の意味でだけど。」

「ふふふ。あら、そう?」

そう笑った緋乃の視線の先を、赤いロードスターが横切った。ブラック・アイド・ピーズの“Pump It!”が遠ざかる。

「若さっていいな。寒さなんて気にならないんだね。」

 

 いつの間にか、陽は山並に隠れようとしている。予定では、小国の道の駅に寄って帰ることになっていた。しかしそうすると、日田に着く前に陽が暮れてしまう。特に買いたいものがある訳ではないので、そこには寄らずに引き上げよう。