宇宙の果てと言っても、標識のようなものがあるわけじゃあない。暗黒の弾力のある壁のようなものだ。そこから先へはどんなに推力の強い船でも進めない。ある程度までは進めるのだが、そこで押し戻されてしまう。そうさなぁ、膨らんだゴム風船にこぶしを押し付けてる感覚、とでも言ったらわかってもらえるか。
結局宇宙の果てがただの暗黒の風船のようなものだとわかると、次第にやってくる連中が減っていった。今じゃ一日に一隻来るか来ないかだ。
で、暇になった俺は考えた。壁を通り抜けようとか虚空間トンネルを作ろうとかしたやつはいたが、壁自体をぶっ壊そうとしたやつはいない。そんな事、端っから無理だと決めつけてるからな。でも、やってみなきゃ分かんないだろ。壁の向こう側には別の宇宙が広がっていて、面白い生物がいるかもしれない。ひょっとしたら別の時間軸で過ごしている俺がいるかもしれない。
そう思うと、いてもたってもいられなくなった。そこで俺は休暇を取りG13…地球に里帰りするからと嘘を言って、整備に入る直前だったこの船を拝借した。だから、搭載機はすべて降ろされているってわけだ。俺は地球へ飛ぶと見せかけ、IDDで一旦ダゴバから2パーセク離れた宇宙空間まで飛んだ。そこからハイパードライブでここまで戻って来ると船を反転させ、亜光速エンジンの出力を上げた。もちろん磁力アンカーを打ち、重力ブレーキをかけることは忘れなかった。モニターの数字を見ていると、壁は次第に押されていった。一気に片をつけようと考えた俺は、フルパワーを命じた。その時、限界まで押されていた壁が一気に元に戻り、推進イオンがノズル内に逆流。イオン発生装置を破壊したにとどまらず、船の後方にあった推進機部分をすべてふっ飛ばした。もちろん、ハイパードライブもIDDも木端微塵。アンカーが利いていたおかげで船があらぬ方へ飛んで行くのは防げたが、逆にそのお陰でここに釘付けされてしまった。
さあて、これからどうするか。どうあがいたってこの艦からは逃げ出せない。助けを呼ぼうにも、発信アンテナはさっきの爆発でエンジンともども吹っ飛んじまった。八方ふさがり、あとは酸素が切れるまでの命だ。本当に、あっけないもんだ。
ここに来ての三年間、いろんな連中と出会った。中でも、先週ゲートにやってきたサジコット星の住人は楽しかったな。ちょうど暇だったんで、奴らの船に表敬訪問と称して遊びに行った。気を良くした奴らは色々歓待してくれ、そのうち奴ら独特の意識を解放し共有する方法を教えてくれた。あの星は、個人個人の経験を住人全体で共有し、星全体があたかも一つの生命体のようになっている。肉体はあくまでも精神の仮の器であって、それが朽ち果てても共有された意識は残る、と。じゃあなんで肉体を持って生まれてくるんだ、って話だけどな。しかし今となっちゃあ、その秘伝を試す機会もなくなってしまった。残念な事をしたな。こんなことなら誰かを相手に試しておく…ちょっと待てよ。やつら共有したい相手との距離は関係ないと言っていた。ということは…ダコバにいるアルジの意識とも共有できるんじゃないか?そーだよ、奴らの話が本当なら、ここで肉体が滅んでも俺の精神はアルジの心に生き続けられるんだよ。いやそれどころか、やつを操ることが出来るんじゃないか?よし、どのみちもうすぐ死ぬんだ、こいつはやるっきゃないだろ。
で、もし上手く奴の精神、いや心、ゴーストの中に入り込めたとして何をする?…ふふふ、そうそう。いつも善人ぶってやがる奴の、ダークサイドにはいりこむのはどうだ?良心という重い蓋で閉じられている心の闇だ。万人がひたすらに隠そうとする本能とも言えるその部分を、覗いてみるのも面白い。いっそのこと暴露するというのはどうだ?面白そうだ。わくわくしてきたぞ。そうと決まれば早速始めるとしよう。
確か親指はここで、人差し指と薬指を…
『酸素アウトです。酸素アウトです。酸素がなくなるまであと10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…プ―――』
続