そう言いながら、独特な呼吸音とともに正面にゆっくりと座った黒い影。そう、彼は・・・
「あなたらしいはっきりとした答えですね。しかし、考えてみてください。分別があるということは、世間体に縛られて、思っていても言えない・出来ないことが増えてしまったってことなんです。増え過ぎて、心の中には様々な感情が渦巻いている。あなたが感じたような悔しさ、怒り、ねたみ、寂しさ。どちらかと言えばマイナスの感情です。じゃあ、それらに潰されてしまわないためには、どうしたらいいんです…バランス、ですか?」。
「その通り。」
「つまり、マイナスに傾いた心のレベルをゼロに持っていけと。わかっていましたよ、そのことは。だから心が軽くなるような楽しく明るいプラスのことをすればいい。私にはそれが人を愛することだったんです。」
「違うな。マイナス側の左右でバランスをとればよかった。“怒り”と“技”という。」
「あなたほど、ダークサイドに身を染める勇気はありませんでしたよ。だから、私は寂しさを埋めるために彼女を愛したんです。そして彼女はそれに答えてくれた。ルシルがいない時はほとんど一緒いたし、慰問や公演で長期留守の時は旅行にも行った。そんな中で訪れたキャッシークでの夜、ロシュアの木の上で降り注がんばかりの星を眺めていると、彼女がそっと体を預けてきた。本当にいとおしく思いました。あんなに幸せを感じたことはなかった。彼女といると、どんな嫌なことも忘れられる。この人のためだったら、何でもしてやれる。彼女を愛することで、私の心はとても満たされていました。」
深い呼吸音が二回、黙ってこちらを見据えた表情から聞こえた。
「いけないことですか?人を愛してはいけないのですか?若い頃なら、誰にはばかることなく愛情を表現できたのに、今はやってはならないことだと?歳だから、結婚しているから、世間体が悪いからという理由で、満たされない心を持ったまま生き続けていかねばならないのですか?だとしたら、人生はなんて残酷なんだ。心を持って生れた人間でありながら、成長していくにつれその心を閉ざしていかねばならぬとは。」
「それが運命というものだ。」
「違う、運命なんかじゃない!私は嫌だ。自分を潰したくない。人を愛し続けたい。どうして許されないんです?なぜ愛することをやめなければならないんですか?愛する人と二人でゆっくりと過ごし、同じ体験をし、二人で語り合う。私は…お互いの感動を共有し、いたわりながら生きていく人が欲しい。あなたがそばにいてくれてホントによかった、と言ってくれる人が欲しい。自分の存在を認めてほしい。生きていてよかったと実感させてほしいだけなんです。」
「勝手にすることだ。」
その言葉とともにスーッと姿が薄くなり、正面の客の背中だけが見えた。
「ミー、戻ったね。」
「はぁ〜。おまえはほんとに悩みがなさそうでうらやましいよ。ノーテンキって言葉は、お前のためにあるんだろうな」
「ちょっとしちれいじゃない?」
垂れ下がった耳を大きく揺らして抗議した。
「あ〜、ちょっとばかしやばい事になる気配ね。」
そそくさと彼が消えていくのと入れ替わりに、トーキー越しの声が聞こえた。
「IDを見せてもらおう。」
接近戦用のブラスターを手にしたスノートゥルーパーが、目の前に現れた。
「おいおい、いつから酒飲むのにIDなきゃあいけなくなったんだ?」
「お前に質問する権利はない。」
「やれやれ、外のスピーダーの中だ」
「わかった、ついてこい。」
ったく、融通の利かねえお固い野郎だ。
外に出ると、既に暗くなりかけていた。遠くにモス・エスパの明かりが見える。
「あの街、暗黒卿が小さい頃母親と暮らしていたところだ。今じゃすっかり寂れているが、かつては年に一度開かれるポッドレースを観に、近くの星から人がわんさか訪れたもんだ。で、こっちの二つの太陽が沈んでいる方向に、スーパーヒーローが育ったモイスチャーファームがあった。かわいそうに、育ての親である彼の叔父と叔母は帝国軍に殺され…」
突然。激痛を感じ思わず膝をついた。
「つ!何を…」 続