「ダゴバビールくれ。」
休暇で久々に訪れた馴染みの店で、俺はカウンターの中の背中に向かっていつものやつを注文した。
「この店をまだ覚えてくれていたとは嬉しいね。」
そう言いながら相変わらず手荒にグラスを置いた店主に向かって、コインを指で弾く。こちらに背中を向けながら器用に後ろ手でそれを受け取ると、顔だけ回し左側の頬で笑った。
大きく一息吐き口いっぱいに含み、グビリと飲み込む。懐かしい味だ。舌先がしびれる感覚と共に、青臭さと焦げ臭さが混じった香りが鼻から抜ける。宇宙広しと言えども、こいつを飲めるのはこの店だけだ。
人いきれでむせ返るような店内の片隅のテーブルに陣取り、ビールをちびちび流し込みながらあたりを見回した。狭いステージではオールディーズのバラード“オルディランの夕陽”を演奏しているが、客のほとんどはおしゃべりに夢中で聞いちゃあいない。
何人かは肩を抱き合って、どこの星のものか分からぬ言葉でギャァギャァと喚き散らしている。明らかに品は悪いが、あいつらとて宙を駆け回るアストロノーツ。ある意味、エリートなんだが。そんな一癖もふた癖もありそうな連中が、いろんな銀河からここに集まる。
やつらの興味はここで聞かれる出所の定かでない噂話、尾ひれの付いた体験談、危なっかしい儲け話だ。と言って、ヨタ話を肴に酒を飲もうと暇つぶしに来ている訳じゃない。そんな話の中には稀にお宝が眠っていることがあって、そいつで大もうけして楽に遊んで暮らそうという魂胆だ。
事実、一山当てて、密輸船の船長から反乱軍のトップにまで昇りつめたやつがいる。そう言やあ、ずいぶんと会ってないな。
「グロァ、ウォッ!」
聞き覚えのある声…もしやと思い振り向いた。
「おい、嘘だろ。久しぶりだな!ちょうどお前たちの事を考えてたところだ。」
「グァ、ウォッウォッ。」
人間同士でやるハグは、互いを強く抱きしめ相手への思いを伝え合う。しかしこいつとのハグは、注意しないと命取りだ。もともとウーキー族は大きいが、こいつはその中でもでかい。抱きしめられると長毛のじゅうたんに包み込まれたようで、息ができなくなる。
「ゴホッ、ゲホッ。あ、ああ、お蔭さんでな。毛むくじゃら、お前も元気そうだ。」
気分を害さないようにやつの腕をゆっくり解き、顔を腹の毛皮から離すと思い切り息を吸った。
「相変わらず羽振りがよさそうだな。俺に一杯おごっちゃあもらえないか?」
背中から聞こえてきた声の主。そうだ、こいつだ。将軍にまでなっておきながら、堅い仕事は性分に合わないと抜け出し、結局また密輸の片棒を担ぐことになった野郎だ。
「これはこれは大船長殿、お久しぶりで!密輸業でかなりもうけられたと伺っておりますが?」
「おいおい、そいつが久々に会う親友に対する言葉か。その密輸業に一枚かんでおこぼれにあずかった貴様からは、まだ礼のひとつも聞いちゃいねえんだがな?」
あいかわらず口が悪い。だが再会を喜んでいるのは、口元のほころびから見て取れる。
「しかし貴様変わっちゃいないな。何時以来だ?えーっと…ああそうだ。皇帝と暗黒卿をエンドアの戦いで倒して里帰りしたコレリアで会ったのが最後か。あの帝国軍がケツまくってコルサントに逃げていく哀れな格好、昨日のことのように覚えてるぜ。」
「ああ、こっけい極まりなかったな。だが、一つ訂正させてもらってもいいか?皇帝たちを倒したのは、お前じゃなくて彼だ。人に話をするときは正確に事実を告げないと、誰に聞かれてるかわかりゃしないぜ。」
「お堅い事言うな。俺があの星のジェネレーターを爆破しなかったら、誰も殺人兵器を破壊する事なんてできなかったんだぜ。違うか?」
「あくまでも自分の手柄か、まあいい。ところでお前、たまには里帰りしてるのか?」
「いや、なかなか時間が取れなくてな。こう見えても俺は忙しい身なんだぜ。」
「ほう。そのお忙しい方が、今日はなんでこんな辺鄙な酒場なんぞにお越しで?」
「なに、ちょっとしたセレモニーさ。あそこのブラスター痕のいわく話、昔貴様に話したことあったよな?その横にサインをしてくれと、この星の執政官に頼まれたんだ。」
「ブラスター痕?…あーそうか、あんときここから二人と二台を乗せたのがすべての始まりだったな。それからとんとん拍子に出世して、あれよあれよと言う間に将軍様だ。しかもカミサンは、国家元首様ときている。ジャバに雇われたバウンティーハンターから逃げ回っていたあのお前がこんなになるとは、夢にも思わなかったぜ。」
「よしてくれ、将軍なんてお堅い仕事は俺には似合わんよ。宇宙を好き放題に駆け回る方が、性にあってるのさ。」
「まったく、お前は本当に運と他力に恵まれたやつだ。実力はないくせに。」
「ウゴッ、ウゴッ、ウゴッ!」
「おい相棒、お前まで俺を馬鹿にするのか」
「そう言えば、毛むくじゃら。お前の故郷キャッシークはいいとこだなあ。あの小さなジェダイマスターがお気に入りだった訳がわかったよ。」
「コブラビネクネスタ、ジェネラール。」
「ああ、分かったすぐ行く。悪いが“セレモニーの主役“をお呼びのようだ。」
「わかった。せいぜい格好つけて来いよ。そっちが終わったら、ひさびさに昔話を肴に飲もうぜ!」
「ああ。だが覚悟しとけ。どれだけ俺に借りがあるか思い出させてやる。逃げんなよ。」
微笑みながらウィンクで返事すると、不似合いに背筋を伸ばして歩き去っていった。相変わらず、調子のいい野郎だ。えっ、俺が奴に借りがあるだと?冗談言うな、こっちのセリフだ。バウンティーハンター3人に追われていたところを、船もろとも艦に匿ってやったのは誰だ。さあて、どう返してもらおうか…
続