自分の意見が通らなかったり、自分の考えを受け入れてもらえなかったとき、人はイライラしひいては怒りや妬みの感情へと変化させていく。

しかしこれはネガティブな反応であり、自分の許容範囲が狭い、心が狭いということを表している。許容範囲が広ければ「へえ、そんな反応するんだ」、「ほう、面白いことを言うもんだ」とポジティブな反応しか起こらず、怒りなどは湧いてこない。

 

ということは知っていても、実際はそう簡単に割り切れない。自分の経験で得たものがすべてで、それ以外の出来事・考えは容認できないということが多すぎる。まだまだ自分自身の思考基盤をわかってなく狭い枠の中で自称を判断しているのだろう。自分の行動を客観的に見ることができれば、『なんて低レベルなことをやっているんだ』とあきれることだろうが、そこに主観が入り込んでくると『そうだよな、それは当然だよ』と自己擁護になる。

 

許容範囲を広げ多くを受け入れていくことが、人生をワクワク過ごす猷なのだろう。

役2か月に及ぶ練習の集大成”本番”が昨日と今日で終わった。6年ぶりの舞台で、緊張は半端なかったが、何とか周りに助けられながら終えることができた。今回は歌あり踊りありの芝居だったので、役者(!?)生活13年の中での初めての経験。この年になってセリフの暗記すらおぼつかないのに、歌、踊りの練習もしなければならないとは。しかし年齢が近いメンバーに恵まれ、支えあい励ましあって何とか乗り切ることができた。この年でこれほど近しい間柄になれる友ができるとは本当に幸せなことだ。まさに目標に向かって進んできた”同志”といえよう。一生おつきあいをしていただきたいものだ。

「まだ?」

シートを起こすと、少し遠慮気味に尋ねてきた。

「眠ってたんじゃなかったの?」

「ううん。あなたからの言葉ずっと待ってたんだけど、シビレ切れちゃった。」

「何を?」

「またそうやって気を使ってる。いいのよ、はっきりきいてもらって。」

「だから何を?」

「答えは『イエス』よ。」

照れ隠しか視線を落とし、伸ばした足を交互に2,3度揺らした。そのさまがかわいらしくて、素直に口に出た。

「ありがとう。」

「だから何に?」

「え?つまり…その…」

「はい、分ってます。ちゃんと毎朝起きてご飯を作ってあげます。いえ、作らさせてください。でも、1回でちゃんと起きてね。でないと、せっかくの御飯が冷えちゃうから。」

視界を遮っていた霞が晴れたかのように、一緒に暮らすさまが見えてきた。多分頬も緩んでいたと思う。

 車は既に九州自動車道へ入り、車の流れが多くなっている。私の好きなカーブを逆方向から右、左へと揺れ、間もなく国道へと降りるインターチェンジだ。そこから彼女の家までは10分とかからない。

「ねえ?」

「ん?」

「少し体が冷えたから、暖まって帰らない?それに…プリンも食べなきゃ。」

ゆっくりと左腕に手をからめ頭を預けてくる。

「賛成だね。僕も同じことを考えてた。」

「素直な言い方、好きよ。」

そう言うと、太腿に置いた手を少し進めた。

 

 交差点を左折、彼女の家に背を向け小高い丘へと軽やかに登っていく。はやる心は、車にも伝わったようだ。

 

                                                                                     了