博士の就職難問題 企業との溝、埋まらず | yamadatarouのブログ

博士の就職難問題 企業との溝、埋まらず

大学院で博士号を取得し、深い専門知識を身に着けながら、安定した職につけないケースが増えている。7月の参院選公約で、この問題を取り上げる政党が現れるなど「博士の就職難」がようやく社会的に認知され始め、大学や学会の進路支援も本格化してきた。しかし、有力な受け入れ先となる企業側との溝は、まだ埋まったとは言えない。問題に潜む課題と、さまざまな支援の取り組みを探った。

◇「ポスドク」増、05年度1万5496人

 「大学で研究を続ける道も考えたが、あまりにもポストが少ない。それよりも、具体的な製品として社会への貢献が目に見える企業での研究に魅力を感じた」。化学メーカーへの就職が内定した、九州大のポスドク(任期付き博士研究員)の男性(28)はこう語った。有機化学専攻で理学博士号を取り、この春からポスドクとして、化学反応のメカニズムを探る基礎研究に従事している。

 企業への就職を考え始めたこの男性は、大学のキャリア支援センターを訪ねた。そこでの講座を受講し、企業の担当者らからプロジェクトの進め方や知的財産保護、情報管理などの話を聞いた。「これまでの大学の授業では聞いたこともない実践的な内容で、とても新鮮だった」と話す。

 ■背景に国の政策

 「博士の就職難」の背景には、90年代の大学院重点化と「ポスドク等1万人支援計画」という国の政策がある。ポスドクは順調に増え、文部科学省によると、05年度には1万5496人に達した。一方で、大学や公的研究機関の常勤(終身)職の数は、増加分に追いついていない。大学関係者の間では「明らかな失政」との批判が根強い。

 企業は博士採用には消極的だ。今年2月に日本経済団体連合会が公表した企業アンケート(回答71社)によると、技術系新卒採用者のうち博士の占める割合は3%。給与・処遇面で博士の優遇措置を取っている企業は4分の1、「博士の採用を増やしたい」と答えた企業は1割だった。

 理由は何か。

 早稲田大ポスドク・キャリアセンターの西嶋昭生教授は「企業側から博士は当たり外れが多すぎる、と言われる」と打ち明ける。専門性にこだわるあまり、柔軟性に欠けたり、他分野の知識やコミュニケーション能力に問題のあるケースが少なくない、という指摘だ。

 ◇官学が続々支援策

 こうした指摘に応え、博士の活躍の場を増やそうと設けられたのが九州大や早稲田大の支援センター。昨年度は7大学と理化学研究所、今年度は産業技術総合研究所や京都大など4機関が支援事業を始めた。企業と連携したインターンシップや就職相談会、研究管理職や起業に必要な能力を開発する教育プログラムなどの支援策に取り組む。

 「産業界で活躍できる若手研究者育成」を掲げる早稲田大は11日、「化学系ポスドクへの期待」と題するフォーラムを開いた。西嶋教授は「今の大学院教育は、研究者養成に偏りすぎている。大学院で産業界との接点を増やし、学生に刺激を与えたい。優秀な人ほど大学の外へ出て行く、という環境にしなければならない」と話す。

 ■「求職マーク」

 学会や国でも動きが出てきた。

 日本物理学会(会員約2万人)は3日、キャリア支援センターを始動。設立記念式典で、センター長に就任した坂東昌子・愛知大教授は「単なる就職あっせんではなく、博士号を持った教師の増員や新しい職業の創生、企業の意識改革にも取り組む」と抱負を述べた。ポスドク研修会を全国的に展開する。

 応用物理学会(同約2万4000人)は今月上旬に北海道で開かれた学術講演会から、発表者が求職中であることを示す「キャリアエクスプローラーマーク」=図=を導入。希望者はマークを発表資料に表示したり、身に着けたりし、企業の担当者がコンタクトを取りやすくするという。日本化学会(同約3万2000人)は東京(11月9~10日)と大阪(来年1月25~26日)で、初の「博士セミナー」を開く。

 一方、文部科学省は来年度、博士と企業を橋渡しする事業を始める。半年から1年程度、企業との共同研究や商品開発に博士が参加するプログラムを大学などが作り、派遣費用を国が負担する。「企業にとっても、優秀な人材をそのまま採用できるメリットがある」(基盤政策課)という。

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 ■ことば

 ◇ポスドク

 ポストドクトラルフェローの略。博士号取得後、終身雇用ではなく、任期付きの研究職につく人のこと。任期は多くが1年更新で、最長3~5年程度。文部科学省によると、30代前半が46%。女性は21%だが、40歳以上では27%になる。社会保険加入者は58%にとどまる。