タロットカード「魔術師」と映画「オデッセイ」 | さざ波スワン ~タロットと旅する~

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タロットの話題を中心に、音楽、映画、本、アートなど、様々なことをおしゃべりします。毎週日曜の夜8時にワンクリック占いを投稿しますので、ぜひお試しください。

リドリー・スコット監督の「オデッセイ」という映画をご覧になったことはありますか?

 


近未来、火星探査を遂行中だったNASAの調査団は突然の砂嵐に見舞われ、メンバーの一人であった植物学者のワトニーが吹き飛ばされて行方知れずになってしまいます。
残りのメンバーは彼が亡くなってしまったものと思い込み、そのまま宇宙船に乗り込んで地球へと飛び立ちます。
しかし、実はワトニーは生き残っていました。
地球との通信が途絶えた火星に一人取り残されたワトニーは、四年後の火星探査計画まで生き延びることを決め、残された食料や機材を基に生き残り計画を立て始めます。

冒頭の部分だけご紹介すると、こんな感じなのですが、よく考えてみれば、ものすごく怖いお話ですよね。
地球で砂漠の真ん中に取り残されただけでも絶望的なのに、地球から遠く離れた火星に取り残され、その上、自分が生存していることを誰も知らないだなんて、たとえ夢の中でも体験したくない状況です。
しかし、劇中のワトニーは専門である植物学の知識を生かして、食材のジャガイモと調査団メンバーの汚物を利用したジャガイモ栽培を始めたりします。
また、過去の探査計画で使用された無人探査機が打ち捨てられていることを思い出すと、それを探し出して、地球との交信を試みようとします。
そうやってなんだかんだと動いているうちに、火星表面の衛星画像を分析していたNASAの職員が、ワトニーが生き残っていることに気付いてくれるのです。

自分の手元にある物を使って、なんとか動き出すというところ、これはまさにウェイト=スミス版タロットの「魔術師」のカードそのものといった感じがします。

 


ただ、もちろん、これはあくまでも映画の中の出来事であって、例えば、本当に火星でジャガイモ栽培が可能かどうかなんてことはよく分かりません。
他にも、科学的根拠がどれだけあるのか不明なエピソードはあると思います。
しかし、この映画の見どころは、実はそういった技術的なアイデアの面白さばかりではないのです。

実際、この映画はこんな絶望的な状況を描いているにもかかわらず、終始ユーモアに溢れています。
何よりも、一番深刻な状況に置かれたワトニーが、常に独り言でジョークを飛ばしているのです。
印象的なのは、自分を置き去りにした調査団の指揮官がパソコンに残していった古臭いディスコ曲を要所要所でいじる場面。
「2001年宇宙の旅」や「インターステラー」といったSF映画で使われている音楽は、いかにも宇宙を連想させるような荘厳なクラシック音楽やアンビエントミュージックだったりしますが、「オデッセイ」では古臭いディスコ曲が何曲も流れます。
個人的に、ディスコ曲ではないけれど、デヴィッド・ボウイの「スターマン」が流れた時はちょっと笑ってしまいました。

タロット占いで「魔術師」のカードが出た時に、占い師から「何かを始めましょう」と言われて、「いったい何を始めたらいいんだろう?」と頭が疑問符でいっぱいになってしまう方も結構いらっしゃるのではないかと思います。
もちろん、その瞬間は何も思いつかなくても、「魔術師」のカードが出たことを頭の片隅に置いておくだけでも十分だと私は思います。
ただ、そこへ一つ、助けになることがあるとすれば、それは、「オデッセイ」の中で貫かれているようなユーモアを忘れない姿勢かもしれないなぁと思います。
ユーモア精神が発揮される時、おそらく私たちは、自分自身や現状を俯瞰する立ち位置に瞬間移動します。
それは自我や固定観念といったものがついうっかりと手放されてしまう瞬間なのです。
外的状況は変わらないけれど、自分自身や現状を笑うことができた時、それまで自分の頭が頑なにシャットアウトしていたものがするっと意識の中へ滑り込んでくる隙が生まれる、そんな風に思えるのです。

 

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