2013年秋。 

 

その年の夏に長野県のど田舎ゲストハウス「梢の雪」で出会った人と、

Facebook messenger でぼちぼち連絡を取り合い、

山が好きなら東京近隣でもいっしょに登りましょう、という話になり

秋に奥多摩トレッキングという形で再会した。

 

ちょうど私はその年、学生時代のサークルの先輩に誘われて登山デビューをしていて、

登山靴やリュック、トレッキングポールなど一式揃えたばかりだった。

 

新宿駅の一番前の車両で待ち合わせ、で、出発時間ぎりぎりに登山スタイル(赤を基調とした)の彼と再会し、奥多摩までの道中も、到着後のトレッキングの最中も、ずっとなんだかんだいろんな話をした。

私の職場にいるじいさんばあさんの話、認知症をどうとらえるかという話、適応・不適応とはなにかという話、

お互いの学生時代から大変だった就活の話、私は最初の職場が全く合わずうつ病になった話、彼は海外旅行とバックパッカーの話、、

 

なかでもよく覚えているのは、私がよしもとばななの小説が好きで、中学生の頃からずっと読んでいる、ほぼ全部読んでいるという話をしたら

「へえ、どの小説の、どういうところが一番好き?」と興味をもって訊いてくれたこと。

 

 

「え、そんなこと、きいてくれるんだ。」とびっくりした。

 

親しい同性の友人か、家族でも滅多に自分の好きな小説について話したことがなかった。私が接していた同世代の異性は主に大学時代のサークル仲間かバイト仲間が主だったから、もっとノリのいい話、皆が共通に知っているメディアの話、映画や音楽などのエンタメの話、誰かの噂話やお互いの仕事の話が多かった。

 

 

 

小説は長年、自分の中で長年楽しむだけのもので

そういうことを声に出して誰かに話すこと自体がほとんど始めてだったので、

そのときも新鮮すぎてうまく表現できなかったけれど、嬉しかった。

 

彼はよしもとばなな自体にはそんなに詳しくなかったけれど、

かなりの読書家で、吉本隆明の晩年の講演会に行ったことがあるよという話をしてくれた。

 

一緒に歩きながら話をしていると、

だんだん初デートであるとか知り合ったばかりの異性であるということからくる緊張感が薄れ、文化人類学の話やら社会学の話、心理学の話、ひたすら会話に夢中になった。

 

 

夕方、下山したあとはタクシーで事前に予約してくれていたごはんやさんに向かった。

 

(早起きだったこととトレッキングの疲れもあり、タクシーの中で私はこっそり仮眠をとった。昔から車に乗るとすぐ眠くなる体質で、このあとまた元気に喋るためにもそっと休憩しただけのつもりだったが…のちに聞くところによると仮眠はバレバレで彼は「まじか!寝るのかよ!って思った」そうだ。そりゃそうだ。すまんかったな…)

 

そこでも時間を忘れるくらい色々な話をして、当然のように次の登山の約束をした。

日がとうに暮れ真っ暗になった道を駅まで歩き、途中まで電車でいっしょに帰り、

別れるときには「じゃあ!今日はありがとう」となぜかすごくさわやかに握手を求められた気がする。

 

まあそんなかんじでこの後も、山であってはひたすら喋り、を繰り返していた。

話がつきない、お店に入って目の前のお皿が全部からになってもそこから2時間くらいずっと話していられる。特に歴史や世界の話、これまでとこれからの日本の話、自分たちがいま置かれている環境の話とこれから進みたい未来の話について、とにかくどんなことでも。

 

それが一番、この人といると楽しいな、結婚したいなと思った決めてだったかもしれない。

 

幸いにも彼もそのように思ってくれていたようで、

 

奥多摩のつぎの、2回目のデートで付き合いましょうとなり、

そこから二週間で(!)結婚しましょうとなり、

そこから1〜2ヶ月の間にお互いの両親への挨拶をすませ、

 

2015年3月に両家顔合わせをすませ、

 

6月に入籍・同居スタートとなった。