(書評)

『オズの魔法使いシリーズ12 完訳 オズのブリキのきこり』(復刊ドットコム)

   著者 ライマン・フランク・ボーム  訳者 ないとうふみこ

 

『オズの魔法使い』を読んだのは、五年生か六年生の頃だ。あっさりと読み終えて不愉快になった。こんな簡単な物語を書くなんて、子どもを馬鹿にしている。

だが、大人になって、当時の自分の怒りが恐れの裏返しだということに気がついた。

少年の私に、父親は童話を読むことを禁じていた。童話を読むと非現実的になるからだとか。しかし、神話や伝説は読まされた。あと、挿し絵の入った本も読んではならなかった。想像力が培われなくなるからだとか。図書館で本を借りることも禁じられていた。借りた本は一回しか読まないものだ。多読は乱読になり、精読する力が育たないからだ。本は、買ってもらった物しか読んではならなかった。しかも、最低でも三回は読まなければならなかった。読み終えたら、父親に、読んだ本の粗筋を話さなければならなかった。しかも、父親が本の内容について質問し、それに答えられなければ再読しなければならなかった。

しかし、変だ。『オズ』は家にあったが、その粗筋について語った覚えがない。どういうことだろう。誰かがくれたのだろうか。そうかもしれない。

私は、本当は『オズ』を読んで楽しかったのだろう。でも、そのことが父親にばれると嘲笑されるような気がして恐ろしくなって、だから、腹立たしくなったのだろう。そうかもしれない。

父親は『オズ』を読んだことがなかったのだろう。読みたくなかったのだろう。だから、私に試験をすることができなかったのだろう。そんなところか。

父親は文庫本を買ってくれなかった。文庫本は安価なので多読になるからだとか。私は小遣いで本を買っていた。小学生で、007シリーズを全部読んだ。それを父も読んでいた。

彼は『草枕』の冒頭の「智に働けば」云々を暗記するように命じた。だが、本は買ってくれなかった。文庫本でしか売ってなかったからだ。子供向けのハードカバーの夏目の本を買ってくれたが、それは峠の茶屋から始まっている。「幸い下は焚きつけてある」という文は、なぜ、ここにあるのか? 質問されたが、分からない。笑われた。

成人後、『オズ』シリーズを読み始めた。あまり面白いとは思わなかった。『オズのエメラルドの都』ぐらいで止まったような気がする。

去年、『ムーミン』シリーズを読み終えてから、『オズ』シリーズを改めて最初から読み直した。思っていた以上に面白かった。しかも、感心した。大人でなければ、その含蓄は感知できまい。

マンネリだが単なるマンネリではなく、徐々に複雑になり、深くなる。最初の『オズ』の一冊目の読者が12歳だとすると、作者の想定する読者も一冊ごとに年を取る。そんな感じだ。

さて、紹介する本の主人公は、あのブリキのきこりだ。

ブリキのきこりは、戸棚に気づいて、なにが入っているのだろうと興味をそそられ、戸棚のひとつに近づいてとびらをあけてみました。なかには棚があり、ブリキの皇帝のあごと同じくらいの高さのところに、頭がひとつおいてありました。

(「18 ブリキのきこり、自分と話す」)

ブリキのきこりは「皇帝」になっていた。

「これはこれは!」ブリキのきこりは、相手の顔をまじまじと見つめました。「どうも以前、どこかでお目にかかったような気がしますねえ。おはようございます!」

「おや、そうかい」頭がこたえました。「こっちは知らないけど」

「でもきみの顔にはとても見おぼえがありますよ。失礼ながら――ええと、そのう――体は、はじめからついてなかったんですか?」

(「18 ブリキのきこり、自分と話す」)

*                                                                

『ドウエル教授の首』(ベリャーエフ)みたいだ。

「名前はないんですか?」

「あるよ。ニック・チョッパーってよばれてた。むかしはきこりで、木を切ってたからね」

「ええっ!」ブリキのきこりは、ぎょうてんしてさけびました。「きみがニック・チョッパーなら、きみはぼくで――いや、ぼくがきみで――いや、それとも――うーん、いったいぼくらはどういう関係なんだろう?」

「こっちにきかないでくれよ」頭がこたえます。「べつに、あんたみたいな、ありふれたつくりものと関係をむすびたくはないんだから、あんたも自分の仲間うちじゃよくできたほうなのかもしれないが、こっちとは種類がちがう。あんたはブリキだ」

かわいそうなブリキの皇帝はすっかりどぎまぎしてしまい、ものもいえずに自分のむかしの頭を見つめるばかりです。

(「18 ブリキのきこり、自分と話す」)

元ニック・チョッパー以外に、もう一人、ブリキの兵隊が出てくる。ブリキの兵隊の肉体も生きて保存されていたが、首はないので、二つの肉体を合成して新しい人間が出来上る。『フランケンシュタイン』(シェリー)みたいだ。

彼はチョップファイトと命名された。魔法を使えば、ブリキ人間はチョップファイトと入れ替わることができるかもしれない。だが、チョップファイトの所有者は、どちらのブリキ人間だろう。

「あんたがたブリキ人間に、いやほかのだれであろうと、おれの頭や腕やそのほかの部分を、自分のものよばわりされるいわれはない。これはおれ自身のものだ」

(「22 ニミー・エイミー」)

誰かがこの議論に決着をつけてくれる。

もっと書きたいけど、ネタバレになるからやめる。

ヒント。「言葉とほうきの両方をつかってね」と言う人。

(終)