つつじの花も終り、紫陽花に移ろいの時を感じます。
紫陽花を育てる大人のひとが居りました。
今の時代には見られない寡黙な顔つきです。
若くして片脚を失った傷痍軍人でした。
*妻は役場に勤め、和装小物の職人である老父に養われていると言われていました。
穏やかに時間が流れている家庭でした。
彼は、激戦地を闘い抜いて生還した方です。
「同じ部隊の御遺族の方が訪ねてまいります」と、奥様のお話でした。
この頃は、まだ我が子の消息を尋ねる*母親がおりました。
執着と云うほどの情の深さです。
(白鳥の親子 Free Photo By il cantiere)
夕方、
ゆるり、ゆるりと散歩する、その方の影を思い出します。
彼の家から、子供の声はありませんでした。
森の仲間になりました。
短稿でした。
*この時代、旧軍人一家に対しては、世間から物心ともの困難な状況がありました。
彼の妻は、職場でのいやがらせにも耐えていました。
老父は、身体も精神も病んだ息子を必死に生かそうと夜なべして働いていました。
*母親の気持ちは、自分の息子は戦死していると感じていますが、息子と同じ年代、同じ生活を過
ごした彼に息子の影を重ねて逢いにくるのです。