松本人志の 功と罪 (前) | 鈴木太郎の思うこと

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自分の思うことを書いていきます

さて、14回という長きにわたって続いた「島田紳助『伝説のNSC講義』紳竜の研究」の書き起こしが全部、公開できたわけですが。

「前書き」という記事に書いた通り、2007年にM-1で優勝したサンドウィッチマンが、この島田紳助の講義を聞いて、M-1で勝てる方法を確信したという話を聞き、この2007年3月にNSCで行ったという講義の内容を知りたいと思っていて、それがyoutubeに公開されていたから、もう全部文字に起こして載せてしまおうと思ったのが、これを書き始めたきっかけでした。




僕は、この講義を書き起こしたものがまだ世の中にないと思ってたので、だったらやる意味があると思っていたのですが、実は「島田紳助 自己プロデュース力」という本という形で、すでに世に出ていたようで。

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しかし、気づいたのは全部書き起こした後だったので、もう載せちゃおうと思って、14回にも渡って載せたわけですが。だから、この14回に渡って載せた書き起こしの記事はもしかしたら、いつか著作権侵害で削除されてしまうかも知れません。

しかも、いま本へのリンクを貼ろうと思って、アマゾンのページを開いたら、本の評価はあまり高くないようです。内容が悪いわけじゃないけど、これだったらDVDに収録されてる島田紳助本人の喋りを聞いたほうが伝わるものがあるという評価が数多くありました。

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こうして、自分のやったことの無意味さに今、気付かされた訳ですが、めげずに書くとすると。


本当はこの記事は、わざわざ自分がyoutubeの動画を再生しては止めて、再生しては止めてという地味な作業を繰り返すうちに気づいたことを・・・まぁ、ただの感想なんですけど、それを書こうと思ったのですが、やっぱり自分は強烈なダウンタウン世代で、強烈な松本信者(自分ではそう思ってないのですが、わかりやすくそういうことにしておきます)なので、島田紳助の講義動画をもとに、松本人志論みたいなことを書こうかなと思って。だから、興味ある人だけ読んで下さい。

本題に入る前に、島田紳助の講義動画のなかで、僕が面白いなーと思ったものをあげていきます。


島田紳助「伝説のNSC講義」紳竜の研究 (1) →才能と努力
http://ameblo.jp/taroosuzuki/entry-12005846457.html

島田紳助「伝説のNSC講義」紳竜の研究 (2) →笑いの教科書
http://ameblo.jp/taroosuzuki/entry-12005849722.html

島田紳助「伝説のNSC講義」紳竜の研究 (4) →X(エックス)とY(ワイ)の分析
http://ameblo.jp/taroosuzuki/entry-12005856237.html

島田紳助「伝説のNSC講義」紳竜の研究 (6) →運と計算
http://ameblo.jp/taroosuzuki/entry-12005861826.html

島田紳助「伝説のNSC講義」紳竜の研究 (8) →TVのヒミツ
http://ameblo.jp/taroosuzuki/entry-12005866464.html

島田紳助「伝説のNSC講義」紳竜の研究 (10) →やるということ
http://ameblo.jp/taroosuzuki/entry-12005872357.html

島田紳助「伝説のNSC講義」紳竜の研究 (11) →M-1の戦い方
http://ameblo.jp/taroosuzuki/entry-12005886485.html



まぁ、こんなところでしょうか。

いや、全部面白いんですよ。全部面白いし、為になるし、紳竜というコンビの結成時のエピソードとか、知らない人なら楽しめると思うし。

ただねぇ、書いてるうちにすごい「邪」なものを感じて、気持ち悪くなってきたのも事実。

何故、気持ち悪くなったかというのをこれから長く、くどくどと書きます。


まず、上に貼ったリンク先の書き起こしは、別にお笑い芸人を目指してない人でも参考になることが書いてあると思います。最後の(11)だけは、M-1での戦い方についての講義なので、一般の人には関係のない話なのですが、紳助さんの本業であるお笑いのことだけに、すごく芯のある話で、事実これを参考にしたサンドウィッチマンは(正確には独自に富澤さんが築き上げた勝つ法則と同じことが語られていた)、2007年のM-1で優勝しています。だから、この講義のもっとも本質的な内容が語られてるのは、この部分じゃないかと思いました。


その他の部分については、物事の基本的な考え方について語られていると思います。

例えば、X(エックス)とY(ワイ)の分析の部分。まず世の中に出るには、分析をしろと。そのためには公式を作れと。Xというのは、自分の才能のことで、Yは世の中の笑いの流れ。その2つが合致して、はじめて多くの笑いがとれるのだという話なのですが。

この話は、何も紳助さんだけが知ってる話ではなく、世にある成功者の本だったら、書いてあってもおかしくないぐらいの、基本的な考え方であって、別に何も目新しいところはないと思うのですが、それをテレビに出倒してるタレントが、自分の言葉で語るところに、この講義の妙ともいえるものがあると思います。

紳助さんが語ってることは、お笑いの世界で生き抜くための方法として語ってるので、すごく目新しいことのように感じる人は感じると思いますが、新規事業をこれから興す人やコンサルタントをやっている人なら誰でもしている、市場分析をして、ニーズを計り、そこから需要を生み出すという方法と大雑把に言えば同じことだと感じたので、目新しくはないと思ったのです。

しかし、そこは当時、現役で番組をいくつも持つタレントが語っているので、そこに新しさがあるのだと思います。しかも、自分の言葉で…って、これはさっきも書きましたね。


それで、厄介なのはこの講義が、現役のタレントが語ることで、すごく魅力ある内容になっているというところだと思います。

そら、お笑いの世界で現役でやってて、聞いている人間が飽きる前に笑いのポイントも作りながら話してるので、面白くない訳がないんですよ。そうは言っても、同じことを出来る人は少ないと思うので、やはりそこは島田紳助という人が、一流だった所以だと思います。

そして、笑うポイントだけじゃなくて、この講義は色んな話術を取り入れて語られていると思います。まず、聞いているのがNSCの生徒という二十歳前後の若い人ばかりということで、わかり易い言葉ですべて説明がされています。そして、語りの多くは、人と人の会話の再現で構成されていて、これはもしかしたら紳助さんの普段の喋りもそうなのかも知れませんが、会話のやりとりを聞くような形で話が進むので、聞いてる側も飽きずに、面白く聞くことが出来ると思います。

それから、時おり混ぜられる「な?」とか「~やん?」という問いかけ。そして、重要な部分は「無駄。無駄な努力」といった感じで言い切る。

紳助さん自身は、他の人のネタをテープに録り、書き起こして、それを見ながら、何が違うのかを分析したのだそうですが、もしかしたら、この講義をじっと見続けて分析すると、同じように島田紳助の語りの謎が解析されるかも知れないです。


紳助さんは、B&Bの漫才を見て、「これなら出来る」「俺の青春をB&Bの島田洋七を倒すことに賭ける」と思って、この世界に入ったそうですが、ここでやられてる努力のしかたというのが、実は他の仕事にも通じる部分があり、それは彼が物事の本質を見極めていたからという見方も出来るのですが、別の言い方をすると、お笑いに興味がなくてもやれるという話にも聞こえなくも無いのが、ちょっと「邪」だなと僕が感じた部分です。

そしてもう一個、「邪」だなと感じたのは、これは何の証拠もなくて、たんなる僕の直感的なものなんですが、この人の語り口はペテン師のそれとすごく似てる気がします。それだけ彼のスキルが高いということでもあるのですが、多くのアンチ紳助派がよく口にする「感動路線」。それと同じテイストの話が、この講義のなかでも語られています。

最後のほうで語られる「夢」であったりとか、これは何も嘘を言ってるとは言わないですが、どこまでが本心なのかが、僕には怪しいと思えました。

要は、島田紳助の「感動路線」というのは、芸能界の生き残り作戦として、本人が利用してたと見る向きがあるのですが。


講義の冒頭で、本人も語っていますが、「とにかくこの世界で食べていくためには、世に出ろ」という話で、彼は巨人阪神の漫才を見て、正統派の漫才では勝てないと判断し、自分のルーツは何かを考え、「そうや、俺は京都のヤンキーやんけ!」と思いつき、紳助竜介のあのスタイルが出来上がるわけですが。

彼は、同じような考え方で、自分はどうやったら芸能界で生き残ることが出来るのかを考えて、もともと彼は感動屋さんで、Wikipediaにも「高校の頃のアダ名は、泣き虫みーくん(感動して、すぐ泣くから)」と載っているぐらいで、天性の明るさを持つ明石家さんまには敵わない。中退こそしてるものの、明治大学に在籍していたビートたけしにはその知性に敵わない、30を過ぎてからデビューした、独特な雰囲気を持つタモリにも敵わない。じゃあ、自分の武器はなんだ!?って考えた時に、笑いと感動の融合はイケるんじゃないかって思って、やってたんじゃないかという説なんですが。

だから、後期のヘキサゴンとかはそれがすごいわかりやすい形で出てたと僕は思うんです。僕は、ああいうのは気持ち悪いし、興味もないので、見ることもしなかったのであまりよくは知らないのですが。


講義の途中で、「野球を語るなら、清原の名前をあげるんじゃなくて、阪神の赤松ぐらいの選手を語れ」と言う部分がありますが、その中でも「野球全体は知らなくてもいいけど、自分しか知らない『赤松』の情報を知り、本当に『赤松』を好きになれ」と言っています。

この講義の内容を信じるなら、彼は嘘で泣いてるんじゃなくて、本当に感動して泣いてるんだと思いますが、それは実は『赤松』的な部分もあったんじゃないかと。そして、「面白い話なんか、一年にそうそうない。元は同じキャベツでも、料理して出さんとあかんのや。われわれ、タレントは。要は、嘘なんやけどね」と語っている通り、彼の真意は、そこにまったく無いとは言わないけども、それは実は調理されたものかも知れないという視点を持って、聞かないとダメだと僕は思いました。


そして、この流れからひとつ疑問に思うのは、もしかしたらこれは僕の穿った見方かも知れないですが、「漫才の練習をする前にテンポを決めろ」「稽古場でやるんやなくて、道を二人で歩きながら、ちっちゃい声で喋るんや」という練習方法を提示してるんですが…これ、嘘じゃないですかね?

いや、僕はわからないですよ。漫才の勉強なんてしたことないし。

でも、もしですよ、これが紳助さんの真っ赤な嘘で、もし「俺がこう言って、ほんまに心斎橋をちっちゃい声で喋りながら歩いてる二人組がおったら、おもろいな」という思いつきで語られたものだったら…。

だって、あの人、そういう嘘をついて、人を騙して、楽しむの好きそうじゃないですか。


さあ、例によって、すごく文が長くなってますね。

タイトルにある松本人志のことについてはまったく触れてないのですが、記事を分割したいと思います。次から、松本人志の功罪について書きたいと思います。