電車に乗ったとたんに、

ふっと40数年前に戻った感覚だった。


そう、こうやって

あの日の私も窓から外を眺めていた。

臆病な私は、

遠くに行くのが怖かった。

その遠くにも違う誰かがいて、

違う人生を生きてると思うと

気が遠くなり、気持ちが滅入った。


そこには確かに私の知らない人たちが、笑ったり泣いたりしながら、

自分の居場所として

別の日常を送っているのだ。

その事実と世間の広さが、

とてつもなく未知の世界で怖かった。

その遠い街と宇宙の果てとは

私の心の中では違わなかった。

同じように未知で果てしがないのだから。


だが今日は、

過去が思い出箱からいっぺんに溢れ出たように、

懐かしい。

寝過ごして、次の駅に向かった時の

ハッと見たビルの風景。

今はもっと高いマンションになっていた。


あの日、

ほとんど同じ車窓の風景を

いつもぼんやりと眺めていた。

吊革にぶら下がりながら

暗がりの外を眺め

「私を見ている誰かがいるのかもしれない」

と思っていた。

その時には天地を創られた

私を造られた

私の神がいるとも知らずに。

ちゃんと見守って下さっていたんだ

とも知らずに。


しかしその日、

虚しさに押し潰されそうになりながら

何かに怯えていた少女はもういない。

今見える景色は何だろう?

あの日よりもずっと歳を取り

出来る事も限られているのに、

何故だかワクワクして希望を持っている

自分がいる。

空がどこまでも青い。

雲は眩しいぐらいに真っ白だ。


マラナタ!