私は、所謂総合格闘技と呼ばれる競技には、とんと興味がなく、だから今から20年位前のPRIDE・K1ブームにも踊ることができなかったクチである。ボクシングは大好きなのだが、拳を振って相手をKOするという共通のカタルシスを味わえるにも関わらず、何だか熱くなれない。たぶん、「何でもあり」だからこそ逆につまらないというか、両手でしか攻撃も防御もできない、その制約の中で戦わなくてはならないからこそ、ボクシングは面白いのかなと思う。

 

それはさておき、メイウェザーである。味をしめた「金の亡者」がまた日本で試合をするそうである。ボクシングルールのエキジビションマッチらしいが、世の中の雰囲気的には、何やらガチンコ的な風味を漂わせ始めているように見える。ほぼ間違いなく、メイウェザーにその気はないだろうが、「世界最強のボクサー」に「日本最強の総合格闘家」が挑む、みたいな構図にしたい人たちがいるらしい。ホンマかいな。

 

例えば、格闘技ファンであるならば、この試合に何を期待するのだろう。客観的に見て、いくらレジェンドと言えど、引退した45歳の元ボクサーであり、かたや、現役バリバリとは言え、全くの他競技の選手である。異種格闘技戦は過去にもあった。今回の一戦を、猪木・アリ戦になぞらえる人もいる。あの一戦にしろ、後世において再評価される結果とはなったが、試合として嚙み合った名勝負かと言われれば、決してそうではないだろう。どちらかと言えば、茶番風味が強い。しかし、あの一戦に関しては、少なくとも両者が現役選手であり、アリは全盛期を過ぎたとは言え、れっきとした世界ヘビー級チャンピオン。ガチンコ幻想を抱いた人がいても、またそこに期待した人がいたとしても、理解できる背景はあったと思う。

 

しかし、今回は明らかに「エキジビションマッチ」である。チャリティーで行われる、竹原慎二と畑山隆則のスパーリング勝負と何ら変わらないと思うのだが。

いや、当人たちがこれは、あくまで余興です、みたいなノリでやってくれた方がまだスッキリするのだが、そこにガチンコ風味をまぶそうとしているのが、どうにもモヤモヤする。ボクシング、総合格闘技のファンの中で、この試合を楽しみにしている人っているのかな、と疑問である。少なくともボクシングファンとしての私は、こんな実物のメイウェザーを見る位なら、youtubeで過去の試合を見た方がよほど良い。

格闘技に興味のない層へのアピール、この一戦を通じて格闘技の魅力を知ってもらいたい、などと主催者はもっともらしいことを言うのかもしれないが、そんなもん、

外国人に、日本の寿司の魅力を伝えたいといって、スーパーの折詰寿司を食べさせるようなものである。

 

結局、この一戦は、当日リングサイドに大挙して陣取るであろう芸能人ご一行様の接待マッチに過ぎないのであろう。彼らは試合の内容なんて、どうでもいいのだ。下手するとメイウェザーが現役のP4Pだと信じているかもしれない。そのメイウェザーを見た、実物を見た、リングサイドで。そのカタルシスを感じたいだけなのだ。彼らが井上尚弥の試合のリングサイドに来ないことを祈る。そのために、本当のファンの為の席が埋められてしまうのは、日本ボクシング界にとって不幸なことである。