アレクサンドロフ「劇場の響き」 | 翡翠の千夜千曲

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音楽を学びたい若者で困難や悩みを抱えている人、情報を求めている人のための資料集

Anatoly Alexandrov ‒ Echoes of the Theatre, Op. 60

Performed by Kyung-Ah Noh 

00:00 - No. 1 Aria: Adagio molto cantabile 

02:33 - No. 2 Galliarde and Pavana: Vivo 

05:54 - No. 3 Chorale and Polka: Andante 

08:51 - No. 4 Waltz: Tempo di valse tranquillo 

10:25 - No. 5 Dances in the Square and Siciliana: Quasi improvisata - Allegretto 

12:49 - No. 6 Gavotte: Tempo di gavotte

 

 

 

 

 それほどポピュラーな名前ではないのに、「何でこの人の音楽を私は知らなかったんだろう」などと思えるのは実は幸せなことです。これは、貴方にとって発見だからです。他の人は、知らなくても、或は無視しても自分にとってはとても心地のいい音楽と言うものは存在するのです。誰かの亜流かな?などと不遜なことも感じたりすることもあるかも知れないのですが、でも全体的に、或は総合的に、又はこのフレーズが、いやこれだけは・・・などニュアンスの違いこそあれ、自分にとってとても好ましい音楽と言うものはあります。恐らく作曲者と感性が似ているのかもしれません。ついでに言っとくと、プロレタリア・アートなんて興味はまったくなく、お題目もレッテルにも関心はありません。曲がよければそれだけでいいのです。

 僕は、「Aria: Adagio molto cantabile」を聴きながら好きだった女の子のことを思い出し、そんな気にさせてくれるこの曲をとても気に入りました。つまり、鑑賞者の僕としては、ただ浸っていればいいような音楽は、一種のイージーリスニング並に感じ取っているのですが、でも安っぽい何の変哲もないバックミュージックともまた違っているのです。つまり、自分の感性とフィットするのかも知れません。 

 彼は、アナトーリー・ニコラエヴィチ・アレクサンドロフ( Anatoly Nikolayevich Alexandrov, 1888年5月25日 モスクワ - †1982年4月16日 同地)は、ソビエト連邦時代のロシアの作曲家でピアニストです。音楽家一家に生まれ、ピアニストであった母親からピアノの手ほどきを受けます。母親は、息子の可能性を感じたために作曲の教師を探す決心を固めていました。セルゲイ・タネーエフの推薦書を得て、先ずは1907年はタネーエフ門下のニコライ・ジリャーエフに入門しますが、翌年からはタネーエフ本人の指導も受けられるようになります。 

 1910年にモスクワ音楽院に入学し、ピアノをコンスタンチン・イグムノフに、作曲をセルゲイ・ワシレンコに師事して、1916年には金メダルを得て作曲科を卒業しています。
 その後、第1次世界大戦中は兵士として従軍しましたが、ロシア革命では赤軍で戦いに参加しました。1923年からモスクワ音楽院の教壇に立ち、1926年以降は教授となります。1964年には退職しています。1920年代の末まで現代音楽協会(ACM)の同人でしたが、この集団は、ロシア・プロレタリア音楽同盟(RAPM)のから手荒い攻撃を受けていました。その結果ソ連の現代音楽の創作サークルは、1930年代初めに両方の音楽団体の解散することになります。ミャスコフスキーやショスタコーヴィチらと同じように多作家でしたが、作品の公開はあまり多くは無いもののいくつか国民的栄誉賞を得ています。
 アレクサンドロフは様式的に見て、スクリャービンとメトネルなどと比較すると、中庸的とも言えます。更に言えば、タネーエフの影響は大きく、時代の先端を行く作曲技法が無縁とは言えませんが、ロシア音楽の伝統を尊重の上に立ち、前衛音楽には踏み込みませんでした。彼の作品の中心は、ピアノ曲や連作歌曲だったと言って良いでしょう。
 さて、Echoes of the Theatre(劇場の響き)」作品60は、おそらく1940年代半ばの作品だと思われます。これらの6つの美しく作られた小品には「古い様式で」という但し書きはありませんが、バロック時代にも似た着いた世界と形式的な礼儀正しさを感じる事ができますから、作品のいくつかは確かにその可能性があります。
 しなやかな「アリア」は、最初はニ長調で歌い始めるものの、終盤には相対的短調の哀愁へと厳かに転じます。ガリアードとパヴァーナ」が続くが、これは二元的な舞曲を並べたものではありません。むしろ、賑やかなホ長調のガリアード、つまり古風なジャンルを20世紀風にアレンジしたもので、「クープランの墓」のラヴェルの手法を思わせるのですが、重厚で抑制されたイ短調のパヴァーヌを包み込んでいます。その古風さはまったく本物で、なるほど脚注には16世紀のリュート曲をピアノ用に書き換えたものであることがわかります。
 第3楽章では、コラールの柔らかく鐘のように響く音のぶつかりが、軽妙で陽気な不協和音のポルカの前に現れます。この曲は、陽気な右手の旋律がオーソドックスな左手の伴奏で展開され、とりとめなくそれでいて淡々とシンプルです。「広場とシチリアーナの踊り」は第5楽章の題ですが、 アレクサンドロフは、おそらく中世かルネサンス時代のイタリアの風景を思い浮かべているのかもしれません。

 これをがヴォットと呼ぶかどうかは不明ですが、名目上はニ長調で始まり、短い強情な序奏のレチタティーヴォが、複雑なリズムを持つ賑やかで騒々しい2つの舞曲(アレグレット)の枕を述べます。ラフなレチタティーヴォの回想は、そのまま終楽章につながり、一見陽気で無邪気なガヴォットは、ジャズっぽい和声で、最後の数小節は予想外に堂々と終焉を迎えます。

 

※ 日高市吹奏楽団第22回定期演奏会のおしらせ

 

※ 演奏会のご案内⑬ ダンシングフルートVol2

 

※ 演奏会のお知らせ⑭ 翡翠トリオピアノ三重奏の夕べ

 

アナトーリ・アレクサンドロフ: ピアノ作品集 第1集

ノ・キョンア

【曲目】
1.バラード Op.49(1939/1958改編)
2-5.4つの語り Op.48(1939)
6-8.ピアノ・ソナタ 第8番 変ロ長調 Op.50(1939-1944)
9-14.エコー・オブ・ザ・シアター Op.60(1940年代半ば)
15-24.ロマンティックなエピソード Op.88(1962)
※1-5.9-14…初録音、6-8…CD初録音
【演奏】
ノ・キョンア(ピアノ)
【録音】
2013年5月21-23日 北テキサス マーチソン・パフォーミング・アーツ・センター