Scrivo in vento pour flûte seule
Scrivo in vento pour flûte seule · Patrick Gallois · Elliott Carter · Elliott Carter Carter : Musique de chambre
Elliott Carter - Scrivo in Vento for Flute (1991) [Score-Video]
理論はどうあれども、結果的には同じような音がするとなれば、だれが書いてもいつ書いても同じことになる。それでは、機械的ではないかと言われてもしようがないことになります。
「前衛の終焉」や「カーターの弟子はみんなカーターみたいになる」と言われた袋小路にたどり着いてしまったのです。14世紀イタリアの抒情詩人ペトラルカのソネットに由来するというこの曲も、結果的には難解な手法によって難解な音楽になり、聴衆は「何かいな?」と首をかしげる始末。ですが、演奏者にとっては、この難解さにちょうせんしてねじ伏せてやろうという気概がなくてはいけない。
作曲者が思いもかけなかった結果を出して、作曲者をぎゃふんと言わせてやるのも演奏者の仕事かもしれません。ただし、相当な技術とこの音楽に対する周到な分析と理解がなければいけません。
人物については以前の記事をご覧いただきたい。
※ 以前の記事
① ホルンの出番です177 エリオット・カーター「ソロ・ホルンのためのリトレースII」
② ホルンの出番です265 エリオット・カーター「木管五重奏曲」
<お知らせ>
カーター、エリオット/スクリーヴォ・イン・ヴェント(1991)
Carter, Elliott SCRIVO IN VENTO (1991) |
解説>
エリオット・カーターは、若き日にハーヴァード大学でウォルター・ピストンに学び、その後パリでナディア・ブーランジェに3年間学んだ後、ニューヨークに戻りました。彼の作曲の独自性が発揮され出したのは第2次世界大戦後です。複雑な形式とリズム構造と表現の自発性が聴覚の思考の中で混合される高度な書法として結実したのです。 「スクリーヴォ・イン・ヴェント」(1991)はフルート・ソロとしては初めての作品。ロバート・エイトケンに献呈、題名は14世紀イタリアの抒情詩人ペトラルカのソネットに由来します。その詩はユートピアの気ままな雰囲気の夏のそよ風と海を歌った一節から始まります。曲は、フルートのゆっくりと静かなメロディーと、高音の16分音符跳躍音型が交互に出現して、詩の持つ矛盾した内実と呼応しています。全体に4分の4拍子で書かれていますが、ゆったりとした歌と複雑で困難な音型を同じテンポ感の中に活かせたとき、この曲の良さが浮かび上がるのではないでしょうか。5分程の曲ですが高度な内容を含む作品です。(解説/三上明子)