シベリウス「レミンカイネン組曲」 | 翡翠の千夜千曲

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Jean Sibelius: Lemminkäinen Suite, Four Legends from the Kalevala | Turku Philharmonic Orchestra

Leif Segerstam, conductor I. Lemminkäinen and the Maidens of the Island II. Lemminkäinen in Tuonela III. The Swan of Tuonela IV. Lemminkäinen's Return

 

シベリウス:レンミンカイネン組曲 作品22 ヴァンスカ 1999

オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団 Osmo Vänskä / Lahti Symphony Orchestra (Leader: Jyrki Lasonpalo) 11/15 Jan.1999 Sibelius : Lemminkäinen Suite, Op.22 (Four Legends from Kalevala) 

1. Lemminkäinen and the Maidens of the Island (1895/96, rev. 1897, 1939)

 レンミンカイネンと島の娘たち(1897/1939 改訂版) 

Allegro molto moderato - Allegro moderato 15:12 (00:03

2. The Swan of Tuonela (1893, rev. 1897, 1900) Jukka Hirvikangas, cor anglais 

トゥオネラの白鳥(1897/1900 改訂版) 

Andante molto sostenuto 9:27 (15:26

3. Lemminkäinen in Tuonela (1895/96, rev. 1897, 1939) 

トゥオネラのレンミンカイネン(1897/1939 改訂版) 

Il tempo largamente - Molto lento - Largo assai 17:41 (25:04) 1897/1939改訂版 

4. Lemminkäinen's Homeward Journey (1895/96, rev. 1897, 1900)

レンミンカイネンの帰郷(1897/1900 改訂版)

 Allegro con fuoco (poco a poco più energico) - Quasi Presto - Presto 6:27 (42:44)

 

 

 

  2月28日は、フィンランドでは「カレワラの日」となっています。これは、フィンランドの重要な民族叙事詩で劇作のひとつである、「カレワラ」が、1835年2月28日に出版されたことにちなんで制定された記念日なんだそうです。日本で言えば、出雲風土記や古事記を連詩にしたような感じと捉えてみてください。そんな訳で今日は、「カレワラ」にに基づいた作品「レミンカイネン組曲」を聴いてみようと思います。

 「レンミンカイネン組曲」(Lemminkäissarjaan)または「四つの伝説曲」(Neljä legendaa)作品22は、ジャン(ヤン)・シベリウスの交響組曲或は連作交響詩です。フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」(前出)に基づいた作品で、1890年代を通じて推敲と改作が繰り返され、約半世紀を経た1950年代にようやく現行版(全4回改変)に落ち着きました。出版は4曲一緒ではなく、各曲別個に行われています。
  4曲まとめて演奏されることもありますが、先に出版されていた2曲、特に「トゥオネラの白鳥」が単独で演奏されることが最も多く、「レンミンカイネンの帰郷」がこれに次いでよく演奏されています。レコードやCDでもこの傾向は続きました。聴衆が好むもの、或は評論家の記事によって触発された結果と言えます。本日は、初版(1897年版)の演奏と最終稿(1954年版)の2つの演奏を並べてあります。どこがどのように違うのか、あなたの耳でご確認ください。

 この作品が生まれるきっかけは幾つかあります。最初のきっかけとなったのは、ドイツ留学中の1890年代にリヒアルト・ワーグナーのオペラ「タンホイザー」や楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」に影響を受けたことです。これに触発されて交響曲「クレルヴォ」を書いて発表しています。これに続いて、シベリウスは祖国の国民的叙事詩「カレワラ」に基づく作品の構想を練っていたのです。

 しかし、作品を構想しているうちに、祖国でこのような規模を持って作品を演奏することは無理ではないか。更にはワーグナーの大仰で執拗とも言える音楽表現が自分には不似合いだと言うことに気づき、オペラよりはリストなどが取り組んできた交響詩の方が自分には向いた表現だと思うようになります。こうして、「トワネラの白鳥」を序曲として、4つの交響詩からなる新たな管弦楽組曲の作曲に取り組んでいきます。これが「レンミンカイネン」なのです。1895年から1896年にかけて「レンミンカイネンと島の乙女たち」と「トゥオネラのレンミンカイネン」、「レンミンカイネンの帰郷」の3曲が追加され、1897年に最初の全面的な改訂が行われました。

 ちなみに、その改変のあらましを見てみましょう。先ずは初稿です。

 1896年4月13日に作曲者自身の指揮により、ヘルシンキ・フィルハーモニー協会により初演された。その時は以下の構成が採られた。

  1. レンミンカイネンと島の乙女たち(Lemminkäinen ja Saaren neidot
  2. トゥオネラのレンミンカイネン(Lemminkäinen Tuonelassa
  3. トゥオネラの白鳥(Tuonelan joutsen
  4. レンミンカイネンの帰郷(Lemminkäisen kotiinpaluu

 第1曲が細部において現行版と異なっているほか、終曲の長さが現在の倍近くもあった。このため、全曲を通じて1時間弱の長さがあったらしい。

 次は、1954年版(4稿)です。

1954年版

 1900年の改訂から外された前半2曲が、1939年にようやく改訂された後、1954年に全曲出版として、初めて刊行された。この際に、中間の2曲の順序が以下のように入れ換えられ、現行のかたちに落ち着いた(シベリウス自身は、すでに1947年にはその意図を持っており、しかも自筆譜には「トゥオネラのレンミンカイネン」と「レンミンカイネンの帰郷」を連続して演奏するよう「アタッカ」の指示を記入しているという)。したがって、これが最終決定版であるといえる。ただし、当初の経緯からも察せられるように、交響曲のように全曲まとめて演奏することは必ずしも要求されておらず、演奏の順序については、慣習的に指揮者や演奏者の解釈や任意の裁量に委ねられている。

  1. レンミンカイネンと島の乙女たち
  2. トゥオネラの白鳥
  3. トゥオネラのレンミンカイネン
  4. レンミンカイネンの帰郷

 これほどの時間のをかけて改作に及んだのは、一つは「カレワラ」の持つ国民性の深部に迫りたいと言う欲求と、自国の文化に対する誇りや民族意識の表出へのギリギリの対決姿勢だったように思います。彼にとって中途の挫折や中断への出直し欲求があったことは間違いがありません。これは、彼の人生の総決算でもあったかもしれません。

第1曲:レンミンカイネンと島の乙女たち
楽器編成:フルート2(うち1本はピッコロ持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ティンパニ、大太鼓、トライアングル、シンバル、弦5-8部
 『カレワラ』第11章に基づいている。レンミンカイネンは、島に住む名家の娘キュッリッキを見初め、求婚したいと思っていた。馬ぞりの名手であったレンミンカイネンが島に行って馬ぞりを走らすと、たちまち島の娘達の人気者になり、彼は島中の娘達と関係を持った。しかし「島の花」と謳われるキュッリッキだけは見向きもしなかった。ある夕方、キュッリッキが牧草地で娘達と踊っているところにレンミンカイネンはそりで突入し、キュッリッキをさらった。抵抗するキュッリッキをレンミンカイネンがなだめ、必死に口説くと、やがて彼女は妻となることを受け容れた。その時、お互いに一つずつ条件を出し合った。レンミンカイネンは戦いに出ないこと、キュッリッキは踊りの輪に加わらないこと。この条件を互いに了承し、レンミンカイネンはキュッリッキを母親の元に連れて行った。母親は喜びの歌を歌った。
第2曲:トゥオネラの白鳥
楽器編成:オーボエ、イングリッシュ・ホルン、バス・クラリネット、ファゴット2、ホルン4、トロンボーン3、ティンパニ、大太鼓、ハープ、弦楽合奏(最大13部まで分割)
 物語:『カレワラ』第14章に基づいている。11章から14章に話が跳んでいるが、その間のあらましは次のとおりである。踊り好きの妻キュッリッキは、夫との約束を破って娘達の踊りの輪に加わってしまった。レンミンカイネンは激怒し、新しい妻を見つけに北国ポホヨラへ向かった(第12章)。ポホヨラの老婆から娘をやる条件にと、3つの課題が出された。ヒーシ(妖かしの森)の大鹿を捕らえること、ヒーシの火のような口をした雄馬に轡をはめること、トゥオネラ川の白鳥を一矢で射ること。レンミンカイネンは大鹿を捕らえ、雄馬に轡をはめた。そして白鳥を射るためトゥオネラ川へ向かった。(第13-14章前半)トゥオネラ川とは、冥界との境を流れる川で、音楽は、その川に浮かぶ幻想的な白鳥の姿を描いている。
第3曲:トゥオネラのレンミンカイネン
楽器編成:フルート2、オーボエ、イングリッシュ・ホルン、クラリネット、バス・クラリネット、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、小太鼓、大太鼓、トライアングル、シンバル、弦5-10部
 『カレワラ』第14章に基づいている。トゥオネラの白鳥を射ようとトゥオネラ川に向かったレンミンカイネンを、彼を憎む盲目の羊飼い「濡れ帽子」が待ち伏せていた。レンミンカイネンが岸辺に着くと、濡れ帽子は水蛇をつかんでレンミンカイネンに飛びかかり、水蛇はレンミンカイネンの心臓めがけて噛み付いた。レンミンカイネンは死に、川に落ちた。黄泉の国トゥオネラに運ばれたレンミンカイネンは、死の神の息子「血まみれの赤帽子」によって体を5つに切り離されてしまった。
『レンミンカイネンの母』(ガッレン=カッレラ、1897年)
第4曲:レンミンカイネンの帰郷
楽器編成:ピッコロ2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、トライアングル、タンブリン、シンバル、鐘、弦5部
 『カレワラ』第15章に基づいている。レンミンカイネンの母と妻キュッリッキが暮らす家の柱にかけた刷毛が突然血を噴いた。それはレンミンカイネンが、自分が死んだらここから血が流れる、と言って柱に掛けていったものであった。母親はポホヨラの老婆から、息子がトゥオネラの白鳥狩りに出かけたことを聞き出すと、トゥオネラ川に向かった。しかし途中で太陽から、息子は殺されて死者の国に運ばれたと聞かされる。母親は鍛冶屋に大きな熊手を作ってもらい、トゥオネラ川からバラバラになった息子の死体を掻き集めた。神に祈りながら体を並べ直し、ミツバチに頼んで手に入れた創造神の膏薬を塗ると、息子は息を吹き返した。レンミンカイネンは、それでもポホヨラの娘を得ようとするが、母親に諭され、故郷へと向かう。音楽は、この物語の最後の部分、蘇生後の帰郷を描いている。

  誠に、一つの組曲の一つ一つの楽曲に祖国とそこに生まれ育った自らのアイデンテティとも言える音楽の姿を求めての創作姿勢は、「フィンランディア」の評判とは裏腹の苦悩の跡を見せる足取りは、我々にとっても痛々しいほどの姿によって、先達への尊敬と憧れを持って限りありません。

※ 以前の記事

① 北欧の作曲家③ ヤン・シベリウス 国民的作曲家の苦悩と喜び

② シベリウス「カレリヤ組曲」

③ シベリウス「交響曲第2番」

④ シベリウス 「交響曲第3番」ハ長調

 

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シベリウス:レンミンカイネン組曲

ユッカ=ペッカ・サラステ (アーティスト, 指揮), シベリウス (作曲), & 1 その他  形式: CD

1レンミンカイネン組曲 作品22 レンミンカイネンと島の乙女たち

2レンミンカイネン組曲 作品22 トゥオネラのレンミンカイネン

3レンミンカイネン組曲 作品22 トゥオネラの白鳥

4レンミンカイネン組曲 作品22 レンミンカイネンの帰郷

5交響詩《夜の騎行と日の出》 作品55