モーツアルト「交響曲39番」 | 翡翠の千夜千曲

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Mozart: Sinfonie Nr. 39 Es-Dur KV 543 ∙ hr-Sinfonieorchester ∙ Andrés Orozco-Estrada

 

 

 

 今日、6月26日はモーツアルの交響曲39番が書き上げられた日です。

 昨日は、ものすごい暑さでしたが、如何でしたか。日本中至る所真夏日でしたから何でもない訳がありません。私は、三回忌の法要があり冷房の効いたお寺や、その後の会食を室内で気温のピーク時を過ごしましたが、それでも移動時には結構な汗をかきかき閉口しました。恐らくは、今週は覚悟を決めて生活するようでしょう。6月に40℃超えはやはり尋常ではありません。

 私は、お坊さんの般若心経を聴き、法事が終わった後に帰りに道すがら思いました。モーツアルトは、この頃何かを予感していたのではないかと言うことです。恐らく、自分自身では分からない何かです。言いようのない不安感でしょうか。自分の作品が、売れなくなっていくのではないと言う不安と、「いやまだ多くの書けるだけの泉は枯れていない」と言う拮抗した気持ちがどこかにちらついていたのかもしれません。

 筆まめなモーツアルトにとって、1788年には3通しか手紙を書いていません。それはおそらく殆ど自宅にいたことを意味しています。その3通の手紙はいずれもプーホベルク宛ての借金の申し入れです。中には、まだ返済できていない借金が残っていることを詫びる言葉や、間もなく入金されるだろう演奏会の売り上げについても記されています。要所要所に、近くにいるのに合わせる顔がないとも書いています。結局、借金はすべて返済されることはありませんでしたが、プーホベルクはそのたびに申し込みの全額には至らないものの、必ず送金しています。

 しかし、そんな中でモーツアルトは確実に筆を進めていました。モーツアルトが、1784年から書き始めてから亡くなるまで書き続けた「私の全作品の目録」によると、この年の最後の手紙6月27日前後の十日間に、ピアノ三重奏K.542、交響曲K.543、小さなマーチK.544、ピアノソナタK.545、弦楽のためのアダージョとフーガK.546が書かれたことになります。 

 1788年6月26日にウィーンで完成されたこの交響曲は、モーツァルト晩年の円熟した傑作として知られるいわゆる「三大交響曲」(第39番(6月26日)、第40番(7月25日)、第41番(8月10日)「ジュピター」)の最初の曲でです。この曲の特徴ですが、モーツァルトの交響曲にしては珍しくオーボエがなく、また3曲のなかでは唯一序奏がついています。
 三大交響曲はわずか1ヵ月半のあいだに連続的に書かれています。当時の通例から、演奏会や出版など何等かの目的があって書かれたと考えられますが、前述の通りモーツァルトの晩年の手紙などの資料が少なく、演奏会などの詳細を知ることができないので、何のために作曲されたのかは不明です。更には、これらの曲が、モーツァルトの生前中に演奏されたかどうかも分かりません。

 <楽曲の概要>

第1楽章 アダージョ - アレグロ 変ホ長調、2分の2拍子(序奏)- 4分の3拍子。ソナタ形式(序奏つき)
 まずフォルテで明るい序奏が始まる。この序奏では付点音符つきのファンファーレ的な音型と、第1、第2ヴァイオリンの流れるような下降音型、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの上昇音型によって構成される。下降音型のほうは、楽章全体に登場する。半音を含むような大胆な不協和音をはさみつつ、静かに序奏を終え、アレグロの主部に入る。
 主部はソナタ形式。提示部は弦の分散和音による第1主題で柔らかに始まり、やがて全奏でトランペットがファンファーレ調に力強く引き継ぐ。変ロ長調の第2主題は弦と木管のゆるやかな対話で始まり、低弦のピッツィカートに乗ってヴァイオリンで提示される。展開部では第2主題と第1主題提示部、提示部終結部の締めで使われた音型が展開される。再現部はほぼ定石どおり、第2主題は主調である変ホ長調で奏される。コーダは、下降音型から提示部締めの音型へと移行して、簡潔に曲を閉じる。
第2楽章 アンダンテ・コン・モート 変イ長調、4分の2拍子。二部形式

 まず弦楽器だけで優美な第1主題を提示する。ヴァイオリンから低弦へとメロディーが移り、木管が入った後ヘ短調となりフォルテで第2主題が奏される。その後第1主題を変ロ長調で再現し、木管が緩やかな音型を1小節遅れで輪唱してゆく。続いて木管が第1主題を再現し、弦楽器は伴奏に回り、第2主題がロ短調で表れる。その後変イ長調に戻って第1主題を再現し、曲を明るく閉じる。
第3楽章 メヌエット (アレグレット) - トリオ 変ホ長調、4分の3拍子。三部形式
典型的な三部形式( A - B - A )のメヌエット。主部ではヴァイオリンが元気よく旋律を奏する。トリオでは第1クラリネットはメロディーを奏し、第2クラリネットはリズムを担当する。その後定型どおりメヌエットを反復する。ちなみにこの時代のメヌエットでは普通トリオはメヌエットの下属調が用いられる。しかしこのメヌエットでは例外的にトリオもメヌエットと同じ調が用いられている。なお、この楽章はシャルル=ヴァランタン・アルカンによってピアノ独奏曲に編曲されている。
第4楽章 アレグロ 変ホ長調、4分の2拍子。ソナタ形式
 第1ヴァイオリンが奏でる第1主題に始まる。冒頭の16分音符の音型がこの楽章全体を支配し重要な役割を担う。フォルテで第1主題が繰り返され、続いてヴァイオリンがアルペジオ的な16分音符を続ける華やかな部分が続く。第2主題は第1主題から派生したもので、第1主題冒頭の音型を木管が繰り返しながらフォルテに盛り上がる。終結部も同じように第1主題冒頭の音型を用いてもう一度盛り上がってから提示部を終える。展開部でも、第1主題冒頭の音型が転調を繰り返しながら展開され、クラリネットとファゴットが伸びやかな経過部を形作って変ホ長調に戻り、再現部に入る。再現部は忠実に提示部を繰り返し、簡潔なコーダも第1主題冒頭の音型で終える。

 法要や法事とは、亡くなった人のためにだけ行うものではありません。生きている人のためにもあるものです。普段は中々会えない近しい人たちとの再会の場であり、互いの近況を確かめる場でもあります。

 古い作品の演奏会もある意味似たような意味合いがあるかも知れません。「思い出命日」などという言葉があるそうですが、その人を思い出すだけその人の命日が伸びると言うものです。モーツアルトは、そういう意味では世界中の人から愛されて何と幸せなのでしょう。

 

スコア モーツァルト 交響曲第39番 変ホ長調 KV 543

(Zen‐on score) Paperback– October 28, 2009

 

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ブリュッヘン(フランス) (アーティスト, 指揮), モーツァルト (作曲), & 1 more  Format: Audio CD